同性愛、人種、年齢、障がい……世の中にはマイノリティに対するさまざまな差別や偏見が存在する。その状況に大きな改善が見られる分野もあれば、時代を経ても変化していないこともある。筆者らが、ハーバード大学が実施した440万人を対象にした調査を分析したところ、米国におけるバイアスの変遷が明らかになった。


 米国では、欧州からピューリタン(清教徒)が入植してきた時代から19世紀の大部分を通じて、同性愛は死をもって罰された。だがいま、同性婚は連邦レベルで合法とされている。1937年、能力がある女性なら大統領になれると思う米国人は33%しかいなかったが、2015年には92%に達した。1958年、異人種間(黒人と白人)結婚を認める白人男性はわずか4%だったが、いまは87%にのぼる。

 こうした発見は、私たちの考え方は変えることができるし、実際に変わることを示している。これは、ビジネスリーダーにとって朗報だ。多様性は最高の人材を獲得し、チームをより賢くし業績を改善するなど、組織にとって多くの恩恵があるからだ。

 ギャラップや総合的社会調査(GSS)、ピュー・リサーチなどの調査は、早くも1930年代に、社会的なグループ(特にジェンダー、性的指向、人種)に関する姿勢や考え方が、長い時間をかけて変化してきたことを示している。

 こうした調査の結果は、回答者が自分の心理を意識的に思い出すとともに、それをありのままに申告するかどうかをコントロールできるため「顕在的態度・信念」と呼ばれる。だが、こうした自己申告型の調査には限界がある。回答者は、「正しい」人間と思われたいがために本音を告白しないかもしれない。あるいは自分でも自分の本音をきちんと理解しておらず、正確な回答ができないかもしれない。

 そこで本人が回答を比較的コントロールしにくい、比較的無意識な本音である「潜在的態度」を測定する方法が考案された。そのために最もよく使われるのが「潜在的連合テスト(IAT)」だ。これは、質問にどのくらいスピーディに答えられるかによって、特定の刺激に対する回答者の態度を間接的に測定する方法だ。

 顕在的態度も潜在的態度も、採用など職場における意思決定を含め、さまざまな行動に影響を与えることがわかっている。

 潜在的態度は本人がコントロールしにくいため、顕在的態度よりも意識的に変えることが難しいと考えられている。事実、研究によると、潜在的バイアスは一定の介入措置によって一時的に変えられるが、通常は長続きせず、1日で元の考え方に戻ってしまう場合もある。

 私たちの研究は、ある社会の潜在的態度は、長い時間をかけて永久に変えられるし、実際に変わることを初めて示した(ただし内容によっては、変化のペースも方向性も異なる)。

 2007~2016年に行われた明示的・潜在的態度に関するテスト400万件以上からデータを集めて分析した結果、米国人の性的指向、人種、肌の色に関する潜在的バイアスは、この10年間で大きく低下してきたことがわかった。その一方で、年齢や障がい、体重などに関するバイアスは、さほど改善していないこともわかった。

 この研究の基礎となったのは、ハーバード大学の「プロジェクト・インプリシット」が集めた440万人のIATと自己申告である。そのデータを、経済学の市場分析や予測で使われるような統計モデルを使って分析し、経時的な態度変化を調べた。また、調査結果を説明できそうな回答者の経時的変化(たとえば回答者の年齢が下がったことなど)も分析した。