まず、戦略から始めよ

「何から始めるべきでしょうか」。こう問いかけてきたのは、多角化した大手アパレル企業の新任イノベーション責任者、スティーブンである。その使命は、オペレーション重視の伝統あるブランド群にイノベーションの文化を持ち込むこと。彼の依頼で開催したイノベーション・ワークショップの終了時に、何から始めるのが最も賢明であるか、筆者らに見解を求めてきたのである。

 答えは「戦略から」である。まずは、イノベーション部門の前に立ちはだかる重要な選択肢を熟慮し、明確にするのだ。そうすればチームは、どこを目指しているのか、どうすればそこに到達できるかを、理解しやすいだろう。こう伝えると、スティーブンは目を白黒させた。

「チームに戦略など必要ありません。ブランド事業部は当部門に好感を持ち、必要な存在であると認めてくれています。戦略を立てるのは時間の無駄でしょうし、私たちはいまでも時間に追われています。実際、こなし切れない量の業務を抱えています」