●未然防止に勝る治癒法はない

 人は、自分の態度を変えるよりも、予測するほうが得意だ。リーダーシップの問題についても同じことが言える。

 企業は、リーダーの人選よりも教育に時間とお金をかけるが、本当はその逆が正解である。リーダーのパフォーマンス――従業員にストレスを与える傾向を含む――は、科学的査定とデータを使って予測できることが複数の調査によって示されている。チームをいつも怯えさせ、疎外するリーダーを採用するなど言語道断であり、何の言い訳も立たない。また、コーチングによって好感の持てる、公正で思いやりのある人に育てようにも、もともとその素質を多少なりとも持っていない限り、簡単にはいかないものだ。

 リーダー候補者はもっと時間をかけて精査すべきだろう。過去の業績にばかり目を向けず(初めて管理職になる場合は特に)、実際のポテンシャルにもっと注目しよう。必要な知識や能力があるか、好奇心があり、頭がよく、高い学習能力が備わっているか。何よりもEQ(心の知能指数)、共感力、誠実さがあるか。科学的根拠に基づく査定により、こうした特質を測定することで、将来起こりうるリーダーシップの問題を回避しやすくなる。

 ●スーパースターを採用するよりも、有害なリーダーを排除するほうが企業利益につながる

 ハーバード・ビジネス・スクールによる最近の調査が示すように、毒を持つ寄生リーダーの排除は、高業績なリーダーを雇う倍の利益を生む。毒は、優れた態度より広がる速度や範囲が大きく、トップの態度が悪いと、ウイルスのように企業文化を汚染することもある。

 このよくある罠は、リーダーの強みに注目するだけでなく、潜在的な欠陥も考慮に入れることで回避できる。どのような有害または極端な行動に走りやすいのか。ダークな特性(dark-side traits)が見当たらないか。この調査結果のポイントは、素行の悪いスーパースターよりも行儀のいい平均以上の人材のほうが、企業は儲かるという点にある。

 ●レジリエンスは悪しきリーダシップの影響を見えなくさせる

 昨今、レジリエンス(再起力)ほど必要とされる資質は少ないが、それは従業員が、至らないマネジャーを我慢するためだろう(グリット〔やり抜く力〕にも同じことがいえる)。同じように、無能なリーダーは、感情的知性やレジリエンスの高い従業員を雇えば、自分の無能さを隠せる。従業員エンゲージメント調査を実施すると、そうした従業員は、たとえ酷い管理や不当な扱いを受けていたとしても、好結果が出るからだ。

 したがって、従業員のEQや情緒安定性が指標を上回らないように注意したほうがよい。分析的で正直な人よりも、朗らかで快活な性格の人ばかりを採用している企業は、リーダーシップに問題があってもなかなか気づきにくいだろう。たしかに、そういう性格は一般的に、ウェルビーイングのレベルが高い傾向にあるが、本来は修正すべきリーダーシップの問題を見えなくさせる原因でもある。

 それは、寛大で好意的な顧客のレビューしか読まないのと少し似ている。その顧客が悪いことを言わなかったり、要求が少なかったりするからといって、いい仕事をしていることにはならないのだ。

 ●つまらないほうがいい

 ストレスがたまる(そして爆発する)理由は人それぞれだが、最も一般的なのは、次に起こることが予測できない場合である。

 不確定性は、ストレスを引き起こす最もよくある原因の一つだ。これはリーダーにも当てはまり、カリスマ、目立ちたがり屋、変わり者のマネージャー――激情的、予測不能なら特に――よりも、つまらないマネジャーのほうが、チームや部下にストレスを与える可能性がはるかに低いのはそのためである。

 まずは、採用面接などの短時間の接触だけでリーダーシップのポテンシャルを測るのはやめよう。そうした場で、印象的なショーやパフォーマンスを演じてみせる能力は、リーダーとしての有能さとはほとんど関係がない。それよりも、それぞれの候補者の経歴や推薦状から、その人のリーダシップスタイルや人柄について理解を深めたほうがよいだろう。

 もし本当に従業員のウェルビーイングを向上させたいのならば、オフィスのレイアウトやチームのオフサイトミーティング、オーガニック食材のスナックといった特典に時間や労力をかけるのではなく、従業員が有害あるいは二流のリーダーに傷つけられないために、もっと時間を使うべきだ。

 ストレスのない職場をつくるには、有能なリーダーを雇う必要がある。適材を見つけるには時間がかかるかもしれないが、従業員にとっても、組織全体にとっても、そこに投資する甲斐はある。


HBR.org原文:To Prevent Burnout, Hire Better Bosses, August 23, 2019.

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