(1)効果がない社内特典への出費をやめる
経験則として明らかだが、自社の従業員が何を求めているかはわかっている、という思い込みは禁物だ。それよりも、彼らに要望を尋ねる方法を見出そう。より多くの雇用主がそうすれば、少数の人しか利用しない特典(社内ジムなど)への注力を減らし、すべての従業員に効果を及ぼす環境改善(空気の質や採光)をもっと重視するようになるかもしれない。
我々の調査で最も言及された環境要素は、よりよい空気である。きれいでアレルギーを生じさせない空気によって、ウェルネスが向上すると答えた回答者は58%に上る。外の景色が見えれば仕事のパフォーマンスと気分がよくなる、とした人は50%。作業スペースの温度を自由に調節したい、とした人は3分の1を占める。自分のオフィスの気温が最適だと答えた回答者は3人に一人のみであった。
雑音は悩みの種であり集中力を削がれている、と答えた回答者は3割以上を占める。電話が鳴る音、キーボードのタイプ音、他の従業員が発する雑音は、どれも集中力に影響しているという。
回答者の約半数が、こうした環境要素の改善を雇用主に望んでおり、その思いは他の社内特典への要望よりも強いというケースが多かった。したがって企業が最初にすべきことは、自社がどの特典に金を使っているのかを検証し、割が合わない出費は中止を検討することである。
(2)可能な範囲でパーソナライズできるようにする
仕事以外の生活では、誰にとってもパーソナライズが習慣となっている。観たい番組を一気見し、聴きたい音楽を聴く。パートナーや友人と好みが違っていても関係ない。ソファから立ち上がることなくサーモスタットを調整し、照明を思いのままに暗くする。
従業員は職場でも同様に、こうした特権を望むようになっている。我々の調査結果では、「無制限の有給休暇」(28%)よりも、「仕事環境をパーソナライズできること」(42%)を最も望む人のほうが多いのだ。具体的には、以下の要素である。
・作業スペースの温度:回答者の約半数は、作業スペースの温度を設定できるアプリを欲している。
・頭上とデスクの照明:回答者の3分の1は、頭上とデスクの照明に加え、自然光のレベルも自由に調節したいと望んでいる。
・雑音のレベル:回答者の3分の1は、作業スペースの「サウンドスケープ」、つまり音環境の整備をしたいと望んでいる。
このような要望が叶えられるのは、お偉方の個人執務室だけだろうと思われるかもしれないが、そうでもない。オープンフロア型の作業スペースで、雑音のレベルを従業員自身でコントロールできるよう会社が後押ししている一例として、ヒューレット・パッカード・エンタープライズの本社がある。実際にこの社屋は、周囲の音を管理して、社員にとってのじゃまを減らすよう設計されている。
製薬会社のリジェネロン・ファーマシューティカルズなどはさらに一歩進んでおり、オフィスの窓からの自然光の入り具合を、従業員が携帯電話のアプリで調節できる。
とはいえ、社屋をまったく新しくするという投資を望まない企業にとっては、もっと自然な方法がある。たとえばシスコは、固定席がなく複数の作業エリアから成る部屋にすることで、職場の音のレベルを管理している。各エリアは、直接顔を合わせて協働するチーム向け、遠隔勤務者と協働する人向け、一人で仕事をする人向けに、それぞれ設計されているのだ。
光や温度についても、同じやり方を適用できる。高めの温度と明るい光を好む従業員を、部屋の端に配置し、落ち着いた光と涼しさを好む人を中心に配置すればよい。
(3)職場のウェルネスについて包括的な視点を持つ
職場の要改善点を判断する際に、留意しておくべきことがある。職場のウェルネスとは、従業員の身体的健康のみに関することではない。体、心、環境のウェルネスが含まれるのだ。真に健全な職場環境をつくるには、以下の3領域すべてを考慮しなくてはならない。
・心のウェルネス:自然光が入る環境、そして仕事に心地よく集中できる静かな部屋を提供する。
・体のウェルネス:健康的な食事の品揃えと、人間工学にもとづいて設計されたワークステーションを提供する。
・環境のウェルネス:作業スペースの空気質、光、温度、音が適切であるよう万全を期す。
より包括的な視点で職場のウェルネスを見直す企業は、どこか一つの部署ですべてを解決することはできないと、すぐに悟るはずだ。
我々の調査結果、および世界グリーンビルディング協会の報告は、企業に対して、本当に重要な要改善点はどこかをよく吟味するよう促すものである。従業員の基本的な欲求に立ち返るには、どうすればよいのか――それを検討し、最大の効果につながる最重要部分に投資することを、筆者はお勧めしたい。
HBR.org原文:Survey: What Employees Want Most from Their Workspaces, August 26, 2019.
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ジーン C.マイスター(Jeanne C. Meister)
人事分野のアドバイスとリサーチの専門会社、フューチャー・ワークプレイスのパートナー。仕事の将来像に関するキャリー・ウィリヤードとの共著にThe 2020 Workplace、およびThe Future Workplace Experience(ともに未訳)がある。