今月号の特集テーマ「従業員エンゲージメント」は、米国企業の経営者や人事担当者の間では、以前から意識されてきた人材マネジメントの考え方です。契機は、1990年頃にジャック・ウェルチGE会長が「中長期的に勝ち続けるために従業員エンゲージメントを何よりも優先するように」という指示を出したことにあると言われます。そうした歴史的経緯を含めて、6本の論考で特集を構成しています。
日本でも少しずつ知られてきた従業員エンゲージメントですが、馴染みがない方は、特集6番目の論文からお読みください。「企業が掲げる目標に、従業員が共感し、その達成に向けて、力を自発的に発揮することを促す経営」と説明し、従業員満足度など従来の概念との違いや変化の背景を解説したうえで、なぜこの考え方がいま重要かを論じています。
人材が企業競争力の源泉となる一方、転職率が高まる中、従業員との深い関係構築が求められ、先進企業では新たに「持続可能なエンゲージメント」や「EX」(エンプロイー・エクスペリエンス)が重視されています。筆者らが長年コンサルティングしている企業の事例をもとに、「日本企業がエンゲージメント経営を実践する5つの要諦」を提示しています。
特集1番目~4番目のハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の論文は、この考え方を周知するビジネスパーソン向けに、実践法や新たな視座からの活用法を示しています。
特集1は、ベストセラー『さぁ、才能(じぶん)に目覚めよう』(邦訳2001年版、日本経済新聞出版社)の著者マーカス・バッキンガムらが19カ国1万9000人以上を対象にした調査から、「組織図には表れない『チームの力』を活かすことで、エンゲージメントは高まり、従業員が存分に力を発揮するようになる。そこで不可欠なのが優れたリーダーである」ことを実証します。
この調査を、特集2で、HBRのシニアグラフィックエディターが視覚的にわかりやすく分析しています。
特集3は、"HBRのエース"的存在のハーバード・ビジネス・スクール教授フランチェスカ・ジーノ氏が、組織のエンゲージメントを高めてコラボレーションを意図的に起こす方法を、即興コメディのテクニックを用いて紹介します。威圧的リーダーの下ではメンバーは自発的意欲を失いがちだが、それは基本ルールの設定により解消できると論じます。
特集4は、斯界の権威、ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授のピーター・キャペリ氏が、意外にも、米国企業でエンゲージメント調査への信頼が高いことに対して疑問を投げかけます。「業績向上には給与水準や上司の影響など他の要因が強いから、調査の限界を把握したうえでエンゲージメントの考え方を活用することが肝要」と説いています。
特集全体で共通するのは、従業員エンゲージメントを高めるうえで重要な要素が的確なリーダーシップ、ということです。
特集5は、サントリーホールディングス社長の新浪剛史氏に、ご自身のリーダーシップがいかに培われ、変わっていったか、を中心にインタビューしました。経験に裏打ちされ、かつ論理的で、リーダーとチームの関係に関して示唆が多い話を伺えました。