ストーリーが伝えるメッセージ

 新浪氏は、プロフェッショナル経営者として複数の会社で実績をあげています。そのリーダーシップのスタイルは、率いる会社ごとに変化しています。現状はオーセンティック・リーダーシップであり、背景にはセルフ・アウェアネスがあるようです(この点にご関心のある方は、書籍ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ]5月発行同8月発行をご参照ください)。それぞれの会社の状況に合わせて、その都度、最適なリーダーシップスタイルを採っているとも考えられます。

 注目されるのが、新浪氏のリーダーとしてのコミュニケーション力です。サントリーの社員に取材すると、社内大学(今号の記事ご参照)での新浪氏の講義では、遭難事故のケーススタディを基にしたリーダーシップ論のインパクトが強いとのことです。

 また、今号の記事では、サントリーの企業文化を自身に内在化した書籍として、『美酒一代』(杉森久英著、新潮文庫)を挙げています。創業者の鳥井信治郎氏の理念が、「物語」で理解できる小説です。異なる環境や文化で育った人に対して、自分の思いを伝える上で、物語の力が有効であると考えているのかもしれません。

 グローバル化や価値観の多様化が進む中、こうした方法でのコミュニケーションの重要性はますます高まります。この分野の第1人者、カリフォルニア大学バークレー校の名誉教授、デービッド・アーカー氏の新著『ストーリーで伝えるブランド』(10月2日発売、ダイヤモンド社)では、世界のトップ企業や経営者が自分たちの思いやメッセージを、いかにストーリーの力を活用して、顧客や従業員に伝えているかを詳述しています。

 さて、今年のノーベル化学賞は、吉野彰氏ほか2名が受賞されましたが、弊編集部が7月に発行した『THE ONE DEVICE ザ・ワン・デバイス――iPhoneという奇跡の“生態系”はいかに誕生したか』では、こんな一説があります。「リチウムイオン電池を発明した人々がまだノーベル賞を受賞していないのはノーベル賞の名折れだと考える人は多い」。そして、本書はリチウムイオン電池に1章を割いており、吉野氏とともに受賞したグッドイナフ氏やウィッティンガム氏も登場します。合わせて、ご参照いただければ幸いです。

 今号は特集以外では、巻頭で、マッキンゼー・アンド・カンパニーが「人工知能(AI)を組織の中枢に実装する方法」を論じています。また、『アベンジャーズ』シリーズのヒット映画を量産するマーベル・スタジオの分析論文や、資本主義社会の行方を深く問うロジャー・マーティン氏の「効率化の代償」など、内容の濃い論文が揃っています。とりわけ、「効率化の代償」は逸品だと思います(編集長・大坪亮)。