
自社をイノベーションが生まれやすい会社にしたいのなら、経営者以上に重要な役割を担う人材はいない。筆者らは、経営者自身がイノベーションを起こした経験がある会社ほど、革新的な商品やサービスが生まれやすいという仮説を立てた。そして実際に、過去に特許取得経験を持つ「発明家」がCEOを務める企業では、イノベーションを生んでいることが示された。
イノベーティブな企業をつくる要因は何だろうか。スティーブ・ジョブズは、こんな言葉を残している。「大切なのは金じゃない、人材だ。その人材がどう導かれ、どこまでイノベーションを理解しているかである」。
ジョブズの主張が真実であることは、複数の研究により立証されている。企業のイノベーションの成功を決定づけるうえで、リーダーが主要な役割を果たしていることが示されているのである。たとえば、自信過剰のCEO、刺激を求める性格のCEO、ゼネラリストとしての経験を積んできたCEO、これらの人々は皆、企業をよりイノベーティブにすることが証明されている。
我々は、CEOの背景について、また別の側面から調べた。CEOがみずからイノベーションを生み出したか否か、そして、それが企業のさらに優れたイノベーションにつながったかどうか、である。
『ジャーナル・オブ・フィナンシャル・エコノミクス』誌に発表した最近の研究で、我々は、発明家CEOに着目している。その結果、発明家が経営する企業は実際に生み出すイノベーションの数が多く、質も高いことが明らかになった。
なぜ発明家CEOについて研究するのか。それは我々が、「経験から学ぶ(learning by doing)」という考えに関心を持っているからだ。「特定のスキルや洞察は、直接の経験を通じてしか獲得できない」という考えである。
これが投資のような分野において真実であることは、多くの研究が示している。たとえば、スタートアップを自身で創設したベンチャー・キャピタリストは創設経験のない人よりも業績が優れているし、実際に現場でのビジネス経験がある投資アナリストは将来の株価をより正確に予想する。