そこで我々は、発明家CEOの調査を行った。CEOは、イノベーションを「生み出した」自分の経験のおかげで、みずからの企業でのイノベーションの成功を促す下地ができたのだろうか。

 まず、米国特許商標庁の情報を1975年からたどり、米国の上場ハイテク企業のCEO、935人の発明履歴を追跡した。あるCEOが少なくとも一つの特許で発明者として指名されているとわかった場合には、「発明家CEO」とした。

 我々が調査した企業では、ほぼ5社に1社が発明家CEOを擁していた。キャリアの早期に発明したCEOもいれば、CEOとしての在任期間を通じて発明を続けた人もいた。我々のデータ中の伝説的な発明家CEOを数名挙げると、ローレンス・エリソン、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズなどがいる。

 次に、発明家CEOの企業と、発明家が率いていない企業とのあいだで、特許技術を1992年から17年間にわたり(量と影響の面で)比較を行った。比較した企業は、研究開発に対して同等の投資を行っており、企業寿命が同様の段階にあり(規模と年数が同等)、同じ業界部門に属するようにした。

 その結果として明らかになったのは、発明家が率いる企業は、認可された特許数が多いだけでなく、それらの特許は、発明家が率いていない企業に付与された特許よりも、商業的な価値が高く科学的影響も大きかった。重要なこととして、このような特許に関連するイノベーションもまた、革命的な性質である傾向が強く、同業他社と比較してより画期的な製品の導入につながっている。

 このイノベーションの成功を、もっと直接的に発明家CEOの存在と結びつけるために、我々はCEOの実際の経験をさらにじっくりと調べた。CEOによっては限られた発明経験しかも持っていないとされる人もいたが、影響力の大きい発明家としてより認知された経歴を持つ人もいた。その結果、発明家CEOが自社に及ぼす影響(特許の面で)は、その人がかつて影響力の大きい発明家であった場合のほうが、著しく強力であることがわかった。

 我々はまた、発明家CEOが過去に取り組んだ技術の具体的な種類も調べ、彼らの影響力の強さと何か関係があるのかを理解しようとした。すると、CEOの過去の発明が、自社が製造する技術の種類とぴったり合致しているほど、企業にとってさらに大きなイノベーションの成功を導くことがわかった。

 これらのパターンは非常に興味深いが、単なる相関関係にすぎない。我々はさらに一歩進めて、因果関係の解明を試みた。発明家CEOがこれらの影響を実際にもたらしているのか、それとも単に、成功を収めたイノベーションですでに特許を取得している企業に雇われただけなのか、少しでも光明を投じようとしたのだ。

 そこで、突然のCEO交替を経験した15社という、小規模なサンプルをクローズアップした。発明家CEOが、企業のイノベーションとは無関係の理由(たとえば病気や突然死など)で想定外にいなくなり、発明家でないCEOが後任に就いた企業である。そして、このようなCEO交替が同社のイノベーションのパフォーマンスにどのように影響したかを、それ以外は非常によく似た複数の「対照」企業と比較して調べた。これら「対照」企業は、やはり予期せぬCEO交替を経験していたが、発明家でないCEOから別の発明家でないCEOへの交替であった。

 その結果、対照群における交替の場合と比較して、発明家CEOがいなくなった後は、特許の数と影響力が著しく低下したことがわかった。このイノベーション活動の低下は主に、退任した発明家CEOが経験を有していた技術分野で起きており、このことも発明家CEOが自社のイノベーションの成功に及ぼす直接的な影響を指し示している。