
企業が時代の変化に応じたイノベーションを渇望し、それを実現する即戦力の確保を急務とするなか、大学教育のあるべき姿が活発に議論されている。その中には職業訓練をより重視すべきだという主張もあり、それなりの支持を集めている。だが、全米カレッジ・大学協会(AAC&U)理事長を務める筆者が、経営幹部と採用マネジャーを対象に調査を実施したところ、実際にはリベラルアーツ教育が必要とされていることが判明した。
米国では、教育システム全般に対する信頼が急速に低下している。なかでも問題視されているのは高等教育だが、政治家は事態を一段と悪化させているように見える。
たとえば最近、公立大学への補助金交付額は、卒業生の就職実績のみに基づいて決定する法案が提出された。「真実の探求」や「社会への奉仕」、「人間のありようの改善」といったことは、教育上重要ではない「飾り」にすぎないとして、大学の理念から削除する動きもある(ウィスコンシン州とコロラド州がいい例だ)。
そこには、「リベラルアーツは浮世離れしたもので、実践的な学問ではない」という決めつけが存在し、「リベラルアーツ教育は自己満足にすぎない」というイメージを強化する結果を招いている。それは特に公立大学において、人文科学系学部を廃止して、経済的機会の拡大に唯一貢献できる(と思われている)職業訓練的な学部や、専門職の準備的学部を充実させる動きにつながっている。
「リベラルアーツ教育か、仕事や人生のための準備か」という間違った二分論は、アメリカンドリームから高等教育を切り離し、単科大学も総合大学も、個人と社会の変化を媒介する強力な機構だという事実をぼやけさせてきた。
そのトレンドに対して、「高等教育に懐疑的な見方をする人たちは勘違いをしている」と指摘するだけでは不十分だ。そうではなく、私たち大学当事者は、高等教育はお金がかかりすぎるし、入学が難しすぎるし、学生たちに21世紀に必要なスキルを教えていないという、大きな懸念に対処する必要がある。
こうした問題意識から、全米カレッジ・大学協会(AAC&U)は最近、「アメリカンドリームの実現:リベラルアーツ教育と仕事の未来」と題する、企業の意識調査を実施した。
その目的は、企業経営者や採用マネジャーが、大学教育をどのくらい重要で、価値あるものと見なしているかを知ることだった。また、現代の経済で成功するためには、どのような学習が最も重要で、最近の新卒者はその準備がどのくらいできていると思うかも聞いた。実際の調査は、AAC&Uの委託を受けた調査会社ハート・リサーチ・アソシエーツが実施した。