新卒者は就職を優先すべきか、それとも「夢の仕事」を待つべきか「経験」「信用」「収入」を基準に考える

　●経験

「最高」の仕事や会社だけに狙いを定めたくなるものだが、どんな会社のどんな仕事でも、学ぶことは多くあるはずだ。みずからに問いかけてみよう。「何を学びたいと願っているのか」「どんなスキルを身につけようとしているのか」

　たとえば、書く力に磨きをかけたいのなら、全国的に名の通ったメディア企業や、著名なデジタルマーケティング会社で働く必要はない。業界団体や非営利組織の広報の役割も検討できるし、それほど知られていないデジタルマガジンで執筆する新卒ポジションもよいかもしれない。

　また、ゆくゆく就きたい仕事にだけ焦点を絞らないように。そうではなく、その仕事に最終的に就くうえで必要なスキルについて考えることだ。

　たとえば、広告業で一流になるのを夢見ているなら、クリエイティブな分野でのコピーライティングのポジションや、アカウント・マネジャーの役割を検討するのもよいかもしれない。その際、大手広告代理店だけに的を絞らないようにしよう。いま必要なのは経験を積むことだから、社名のブランド力は日々取り組む仕事ほど重要ではないはずだ。

　同様に、いつか自分自身で会社を経営したいのなら、スタートアップで学ぶことを検討するとよい。何でもこなし、ベンチャー事業を軌道に乗せるために何が必要かを学ぶことは、創業者の知名度や、会社が次の資金調達ラウンドに実際にたどり着くかどうかよりも、はるかに重要である。

　●信用

　もちろん、高級ファッションや、消費者向け製品、投資銀行のように、名声が重要な業界もある。たとえば、P&Gは、消費者向け製品の世界で長きにわたり優秀さの規範であり続けている。したがって同社に入社することは、いかなるポジションであろうとも、マーケティングやブランド・マネジメントの世界で足場を確保したい人にとっては、大きな勝利を意味する。

　ルイーザはバイヤーになりたかったし、ほかの職種は考えられなかった。やがて、どこか名の通った小売・消費者ブランドの世界に足を踏み入れれば、道が開けるかもしれないと気づいた。

　彼女は最終的に就職活動の範囲を広げて、ドイツと欧州中のトップブランドのマーケティングや、ブランドマネジメントのポジションを対象に入れるようになった。さらに、活動範囲を加工食品会社にまで広げた。その後間もなく、彼女は私に興奮気味に電話をかけてきて、50を上回る求人が見つかったと話した。

　求めているものが信用なのであれば、誰もが知っている安定企業でポジションを探すと（デロイトやドロップボックス、デルタ航空など）、役に立つと思われる。私の場合は、履歴書で早期のキャリアにゴールドマン・サックスの社名があることが、のちの仕事への扉を開いてくれたのは間違いない。

　●収入

　給与の持つ力を見くびってはならない。私が知る人はほぼ全員が、給仕したり、喫茶店や小売店で働いたり、低賃金の実習生のポジションに就いたりした経験を持つ。「適職」を探し求めている間にも、収入をしっかり確保するために必要な手立ては打とう。

　私が数年前にEPAに応募した際は、「有力な候補だと思うが、いまは採用を停止しており、採用システムを通過するには6～12ヵ月かかると思われます」と言われた。採用担当者は、私が丁重に辞退すると考えたのだろう。だが私は、荷物をまとめてワシントンDCに移り、友人と部屋をシェアしながら、米州開発銀行で臨時雇いの仕事をした。EPAについに就職できたときには、思い切ってDCに移ってきてよかったと心底嬉しかった。

　あなたのキャリアはおそらく、紆余曲折と浮き沈みの連続となるだろう。だからこそ面白く、挑戦する意義があり、最終的なやり甲斐も大きい。

　キャリアの成功はもちろん、あなたがするであろう「正しい」選択の結果である。だが、最初に就いたのが最悪の仕事だったり、夢にまで見た仕事に就いてみたら自分には向いていないことがわかったり、そんな数々の過ちの中にも、キャリアの成功は潜んでいる。

　だから、小さなことでくよくよするのはやめよう。経験か信用、あるいは収入のいずれかを与えてくれるチャンスを探し、いずれ適職を見つける（あるいは適職があなたを見つける）と信じることだ。

HBR.org原文：Should New Grads Take Any Job or Wait for the Right One? September 27, 2019.

ジョディ・グリックマン（Jodi Glickman）
リーダーシップの育成を目指す会社、グレート・オン・ザ・ジョブのCEO。基調講演も多数担当している。著書に、Great on the Jobがある。HBR Guide to Networkingにも寄稿している。リンクトインでこちらから彼女とつながることができる。