関西電力、日産自動車、ボーイング、フォルクスワーゲン……日米欧を問わず、最近、優良とされる大企業で、経営の根幹を揺るがす不祥事が絶えません。そこで今月号DHBR12月号の特集では、企業の不正や不祥事はなぜ起きるのか、発生時にどう対処すべきか、再発をいかに防止すべきか、などについて多面的に分析し、「信頼される経営」を実現する方法を提示しています。
特集1番目の論文は、総論の位置付けです。まず、不正や不祥事は、それにより企業が信頼を失うことで、多大な損失をもたらす、と指摘します。
信頼は企業が責任を果たすことで得られ、企業は経済的、法的、道義的の3つの責任を負っています。それぞれの責任の意味や重みは、顧客、従業員、社会、株主など、対応するステークホルダーごとに異なると論じます。そのうえで、ステークホルダーが企業の信頼度を判断する4つの基準(能力、動機、手段、影響力)、不祥事を起こした企業が信頼を回復するための5つの方法を示します。
上記の4つの判断基準に、正統性を加えた5つがリーダーの信頼性を決める、と説くのが特集2番目の論文です。『ワシントン・ポスト』の発行人やセールスフォース・ドットコムの創業者が、いかに信頼を獲得したかを事例としています。
特集3つ目の論文は、信頼喪失につながる無謀なイノベーションを論じていますが、売上高や利益などあらゆる面で、過剰な目標の設定と達成に向けた追い込みは、不祥事発生の典型要因です。とはいえ、"攻め"の経営は成長に必要で、一線を超えないための"守り"の仕組みとのバランスが不可欠で、この点は特集後半の論考でも展開されます。
特集4番目は、信頼醸成の構造を神経科学で分析する、『ハーバード・ビジネス・レビュー』らしいアプローチです。
特集5番目の論文は、不祥事に対する謝罪の方法論。「謝罪の要因が、自社の能力欠如か不誠実性か、の違いによって方法が異なる」「謝罪の効果は、信憑性、誰のためか、有効性の3点が問われる」など実践的な論文です。欧米の航空機事故を事例にしていますが、納得感があります。
一方、不祥事対応の成否には、社会風土や経済環境などが影響します。特集の6番目では、ジョンソン・エンド・ジョンソン、カルビー、RIZAPグループ等、名だたる企業で功績を上げてきた松本晃氏(現ラディクールジャパンCEO)に、事故発生時の経験談とともに、信頼構築と危機管理の要諦をインタビューしました。今後ますます経営に倫理観が問われる時代になっていく、と警告します。
特集7番目の論文では、数多くの企業再生を手掛けてきた経営共創基盤CEOの冨山和彦氏が、日本企業の経営で不正を抑制する方法を論じています。
不正が人間の本性に起因することを前提にした制度設計、そして、共同体の論理が強すぎる日本では、社会規範のチェックが入るシステム整備が急務と説きます。コーポレートガバナンスから人事施策まで、攻めと守りの視点から制度を再設計し機能させることが、企業の信頼を担保する道の第一歩となると主張します。