-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
社員たちは「公正さ」を求めている
人員削減せざるをえなくなったA社は、解雇した社員のセーフティ・ネットに多額の資金を費やした。解雇時の補償として、何週間分もの給料、再就職を支援する至れり尽くせりのコンサルティング、健康保険の最長1年間の継続などを提供したからだ。
しかし同社の経営陣は、人員削減が必要となった理由や、なぜ該当の職種が削減対象になったのか、解雇者たちを含め、社員たちに説明することはなかった。そのうえ、解雇通告の任を負った管理職たちもしどろもどろに、ぼそぼそと「こんなことはしたくないんだが──」という、おざなりの言葉を二言三言述べただけで、多くは人事担当者に任せてしまった。
人員削減の対象とならなかった社員たちも、このようなやり方に不満を覚えた。金曜日の夕方、仕事を終えて帰宅する途中の車のなかで、彼ら彼女らの多くは初めてそのニュースを知った。そして、月曜日まで自分の職が安全かどうかはわからなかった。
9カ月後も、A社の業績は低迷を続けていた。しかも、不当解雇訴訟に抗弁するための莫大な訴訟費用を負担しなければならなかったばかりか、さらなる人員削減も敢行しなければならなかった。このような事態に陥ったのは、主に最初に実施した人員削減の方法を誤ったため、社員の生産性と士気がいっきに低下したからだ。
対照的に、B社では人員削減に当たって、A社ほど手厚い手当を用意しなかった。しかし、同社の経営陣は人員削減を実施する前に、その戦略上の意味合いを繰り返し説明した。そして、経営陣と管理職の双方が、人員削減の対象となった社員とそうならなかった社員双方の質問に答え、遺憾の意を伝えた。管理職たちは人事担当者と協力して、対象となった社員たちにその旨を伝えると共に、彼ら彼女らに心底から配慮した。
以上のような結果、不当解雇訴訟を起こした人はほとんどいなかった。人員削減の対象とならなかった社員も、同僚たちが去った後の環境に適応するのに多少時間がかかったものの、人員削減の理由に納得していた。9カ月以内に、B社の業績は人員削減する前のそれを上回った。
A社はB社よりもはるかに大きな資金をリストラに費やしたが、B社のプロセスはA社のそれよりも公平であった。言い換えれば、B社の社員は、自分たちが公正な扱いを受けたと感じたのである。
コストの最小化から業績の向上まで、このような「フェア・プロセス」は、組織および社員にまつわるさまざまな課題において、きわめて効果的である。実際、フェア・プロセスを実践すると、社員たちは直接的かつ間接的に売上げを押し上げていくことが、数々の調査から明らかになっている。
フェア・プロセスは、新しい戦略への賛同をはじめ、イノベーションを促す企業文化を醸成する。しかも、コストはほとんどかからない。つまり、フェア・プロセスは大きな価値をもたらすといえる。では、なぜフェア・プロセスが浸透していないのだろうか。本稿では、このパラドックスを検討し、フェア・プロセスを促す方法を紹介しよう。
フェア・プロセスは費用対効果が高い
ある決定が公正に下されたかどうかは、最終的には社員たちそれぞれの判断に委ねられる。おおまかに言って、フェア・プロセスを促す要因は3つある。第1は、みずからの意見が意思決定プロセスにどれくらい反映されるのか。つまり、社員たちに意見が求められ、真剣に検討されているかどうかである。