データサイエンスの教育・研究で日本を支えていきたい

――DSセンターが本格始動したのは2018年4月からですが、各種取り組みの進捗をどう評価していますか。

 2018年度の1年間で準備をして、2019年度に基礎カリキュラムをつくり上げました。「とにかく早くつくってくれ」という学内外の声に対応し、何とか軌道に乗せることができたというのが現状です。2019年度は前期で延べ3500人の学生が受講しました。後期はそれ以上になる見込みです。

 研究面の活動としては、いろいろな企業と組んでシンポジウムも開催しました。独立行政法人統計センターを皮切りに、グーグル・クラウド・ジャパン、みずほ銀行、日立製作所、伊藤忠テクノソリューションズなど、ユニークなところでは東京大学、横浜市立大学と合同シンポジウムも開催しています。国立大と公立大と私大である早稲田大学がデータ科学で連携できたことは大きな収穫でした。さらにこれらの企業と協同での研究も進んでおり、たとえばみずほ銀行とは、包括的なデータ科学の連携協定を締結し、みずほ銀行の実データを研究で活用させていただくことにもなっています。

――AI人材やデータサイエンティストの不足といった産業界の課題に、DSセンターはどのように応えていきますか。

 学外機関との研究教育の連携において、個別の企業ごとに契約を結んでいたのでは収拾がつかなくなるので、コンソーシアムを発足させることを決めました。コンソーシアムには3つの部会があり、その1つ「社会人教育部会」で企業と一緒に社会人教育はどうあるべきか、どういうニーズがあるのかを模索しながら推進していく予定です。

 AI人材やデータサイエンティストの不足を解決するために、大学として新学部を設置してデータサイエンティストを養成し、その人がいろいろな企業に入って、さまざまな課題をデータで解決するというのも1つの方法です。ただ、日本の大学にはデータサイエンスの専門学部が数えるほどしかありません。それでは、欧米や中国などの大学、研究機関に対抗していくのは難しいでしょう。

 繰り返しになりますが、我々はすべての学部学科の学生に専門性を持ったうえで、データサイエンスの知識を身につけてほしいと考えています。早稲田大学は年間1万人の学生を卒業させています。彼らのすべてがデータサイエンスのスペシャリストではないけれど、自分の専門性を持ちながら、ある程度、データサイエンスのスキルを使えるとなると、産業界にもインパクトをもたらすことができます。さらに、データサイエンス教育を学内に留めるのではなく、社会人教育の形で学外にも開放していくことで、大隈重信が理念に掲げる日本を支えるような人材を育てることができると考えています。

――今後の展開について伺います。

 データサイエンスの教育・研究では、生きたデータを使うことが重要です。企業が保有する実際のデータを大学で有効に活用する仕組みが不可欠となります。一方、企業の実データを活用するには、企業と機密保持契約を結んだり、個人情報が漏えいしないようセキュリティをしっかり管理することが必須です。

 我々はセキュアな環境で企業のデータを解析するプラットフォームも構築しました。DSセンターがハブとなり、企業と契約を結び、データ提供を受けて、プラットフォーム上で研究者や学生にデータを提供します。企業からお預かりしたデータは、研究者や学生のコンピュータには一切渡さない仕組みです。このシステムがうまく稼働すると、ほかの大学からの引き合いも出てくると考えています。

 このように、日本の一般の大学がこれからデータサイエンス教育研究をやっていくための仕組みやシステム、カリキュラムを先行して揃えていきたい。これらによりデータサイエンス教育研究を発展させ日本を下支えしていくことが我々の目標であり、これに基づいて、今後も取り組みを進めていきます。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)