
性別、人種、年齢……職場ではさまざまな理由による差別が存在する。最も影響が大きいにもかかわらず注目されないのが「ビューティー・バイアス」、すなわち容姿による差別だ。この差別は採用から昇進・昇給まで、ビジネスに関するあらゆる場面で見られる。筆者は、ビューティー・バイアスを克服するために人工知能(AI)の活用を提唱する。
人工知能(AI)は、人間の意思決定にバイアスが与える影響を縮小できると考えられている。これは、AIが企業で大きな注目を浴びる理由の一つだ。事実、メタ分析研究では、企業の採用活動にバイアスが蔓延していることが繰り返し指摘されてきた。
たとえ豊かでリベラルな世界でも、職場には性差別や人種差別、年齢差別など多くのバイアスが存在する。実績や能力とは無関係に、一部の人が他の人よりも優遇される事態が生じるのはそのためだ。
ところが、最も明白なバイアスである「ビューティー・バイアス」つまり「ルックス差別」が話題になったり、認められたりすることはめったにない。
実際には、労働市場に「ビューティ・プレミアム(ルックスがいいことによる加点)」が存在することは、十分に観察されている。ある包括的な学術論文は次のように指摘している。「身体的な魅力がある人は、採用面接に進めたり、実際に採用されたりする可能性が高い。頻繁な昇進により、スピーディなキャリアアップを遂げる可能性も高い。そして彼らは、さほど魅力的なルックスではない人たちよりも高い賃金を得る」
ルックス差別としてよく挙げられるのは、肥満や奇抜な服装やタトゥーだろう。つまり、社会の支配的な美的基準から外れたルックスの人は、敬遠される傾向があるのだ。
おおまかに言うと、ビューティー・バイアスとは、外見が魅力と見なされる人が好待遇を受けることである。本人の意思は無関係だ。ただし、「一緒に働くならルックスがいい人のほうがいい」などと公然と認める人(ましてや雇用主)は、まずいない。もちろん、例外はある。
中国海軍は、「ルックスがいいこと」を堂々と入隊条件の一つに掲げている。そのほうが最高の国家を代表するのにふさわしいということらしい。
アパレルブランドの「アバクロンビー&フィッチ」は、WASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)風の店舗アシスタントを優先的に採用したことで差別訴訟を起こされ、5000万ドルの和解金を支払う羽目になった。だが、「ルックスがいいこと」を採用基準に含めること自体は禁止されなかった。あくまで、人種や性別などの面で多様性が確保されていればいいというのだ。
幸い、「ビューティー・バイアス」は驚くほど簡単に発見できる。したがって雇用主がその気になれば、このバイアスを発見して、対策を講じ、その効果を評価することは可能だ。
ただし、そのためには、人間の直感ではなくデータを使う必要がある。そこで助けになるのがAIだ。以下、ビューティー・バイアスを退治する方法を考えてみよう。