公文の全社改革の形
一見非効率であっても一人ひとりの改革の自分ゴト化を重視
海津 “不”を打ち消す改革ではなく、御社のように社員一人ひとりの個の力を高めていく改革を行いたいという会社は多くあります。しかし、いざ全社改革を行おうとすると、仕組みを整える、ルールを決めるなど、型を持って社員を動かそうという発想になりがちです。
そもそもやり方が分からないということもあるとは思いますが、型を用いて“やらせる”方が、経営としてはガバナンスが利きやすくて効率的。ただそうすると、社員は「やらされ感」になってしまいます。
しかし、御社の場合は、あえて非効率であっても、一人ひとりが「自分ゴト化」する、自分自身の心に火を付ける改革のスタイルを重視されていますね。それはなぜでしょうか?
河村 7年先の中期経営計画(以下、中期計画)を策定するに当たって常に考えていたことは、未来を予測することがますます困難な時代が到来する中で、こうした中期計画にどのような意味付けをすべきか、ということでした。
一度決めた戦略や緻密な計画も、変化する環境に合わせて柔軟に変更し続けていくことが必要な時代であること、また、その変化が、日本全国で一律に起こるのではなく、地域ごとに変化のありようが違う中で、その地域に応じて、その場で判断していくことが必要になってきます。
そこで、そうした変化を目の前にした社員一人ひとりが主体的に「何のため」という目的意識のもとに、「何が良いことか」「もっと子どもたちを伸ばすために」を考えて、柔軟に実行できる組織づくりが大切ではないかと考えました。素晴らしい戦略や緻密なアクションプランの策定以上に、この組織づくりを何より大切にした改革スタイルを取ることに挑戦しました。
トップダウンでもボトムアップでもない
「時計をみんなで作る」のが、一人ひとりが主役の全社改革
海津 この改革スタイルが、「一人ひとりが主役の全社改革」と称する意味ですね。トップダウンの改革ではないことは分かりますが、これは現場主導といった「ボトムアップの改革」とも異なるのでしょうか?
河村 当初は「ボトムアップの改革」と表現していましたが、途中で違和感が出てきました。一人ひとりが主体的に参画する改革を目指すことは、ボトムアップの改革なのか?という問いです。あらゆる立場の人が主役であるということをより明確にするために「一人ひとりが主役」という表現が適切ではないか、となって、策定途中からその表現にしています。
海津 トップダウンかボトムアップかという二項対立ではなく、水平的なイメージですね。改革へと向かう姿勢が立場に関係なく、それぞれが同じ土俵の中で一人ひとりが主役になっている。

執行役員 日本統括本部長、指導者・会員サービス本部長
海野肇
1982年公文教育研究会入社。町田事務局、大宮事務局、東京本部等を経て、人材開発、社長室業務に携わる。その後マーケティング戦略推進本部を経て、2019年7月より現職。
海野 トップダウンがあって、ボトムアップがあって、一橋大学名誉教授・野中郁次郎先生の「ミドル・アップ・ダウン」もあります。これを全て行う感じです。ボトムアップだけで永続的に会社が変わり続けることは難しいと思います。もちろん、ミッションの実現に向けて、トップからの「こういう枠組みで行う」というものは必要ですし、ミドルも、いや全ての社員が大切です。
約25年前の本の話になってしまいますが、『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著、日経BP社、1995)の「時を告げる人」が何人かいるのではなく、「時計をみんなで作る」という感じです。