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従業員は会社や上司から認められたいと思っている。ただし、彼らの欲求は2つあることを忘れてはならない。成果や業績に基づいて肯定的なフィードバックを与えること(レコグニション)も必要だが、人としての存在そのものを認めること(アプリシエーション)はより大切である。本稿では、それらの違いを明確にしたうえで、アプリシエーションを示す3つの簡単な方法を示す。


 レコグニション(recognition)とアプリシエーション(appreciation)。この2つの言葉はよく区別なく使われ、同じことを指していると思われがちだ。どちらも重要なことに変わりないが、両者には大きな違いがある。チームの成功を望むリーダーや、エンゲージメント、忠誠、高業績の組織文化を育みたい企業は、その違いを知っておくべきだろう。

 レコグニションとは、成果や業績に基づいて肯定的なフィードバックを与えることをいう。そのフィードバックは、表彰、特別賞与、昇進、昇給など、正式な形をとる場合もあれば、口頭でのお礼や手書きのメモといった、非公式な形をとる場合もある。どの方法でも意味があり、特にタイミングよく誠意をもって行うと効果大だ。動機づけにもなり、ワクワクもさせる。よい仕事をしたら褒められたいのは、誰でも同じなのだ。

 だが、レコグニションには限界もある。第1に、成果ベースということは、条件付きである。第2に、過去に基づいている。すなわち、すでに行われたことが対象になる。第3に、希少だ。レコグニションを与えられる人数には限りがある。全員に賞金を配るわけにも、全員の名を挙げ連ねるわけにもいかない。それに、みながわずかな褒美のために競うことになるとストレスが生じる。第4に、一般的には上から与えられるべきものだ。社員同士が互いの努力を認め合う制度を採用している企業も多いが、正式なレコグニション(昇進、昇給など)は通常、トップが行うものである。

 また、金銭を伴うレコグニションは、悪くはないが、従業員の動機づけに関していえば、実際には逆効果になりうることが、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究者らにより判明した。51の実験とその分析によれば、「タスクをやり遂げ、そのことに喜びを見出そうとする従業員の生得的傾向が減じられる」という。

 これに対してアプリシエーションは、相手に本来備わっている価値を認めることをいう。何を成し遂げたかではないところがポイントだ。仕事仲間として、また一人の人間としての価値を問題にしている。

 端的にいえば、レコグニションは人の行動、アプリシエーションはその人の存在を認めることだといえる。

 この違いは、レコグニションとアプリシエーションを使い分けるうえで重要だ。人は成功するにしても、必ず何らかの失敗や困難を経ている。明らかな成果というものがわかりにくい仕事もある。成果の称賛(レコグニション)ばかりに気を取られていると、部下へのサポートや信頼関係を構築する(アプリシエーション)チャンスをどんどん逃すことになりかねない。

 数年前、ハーバード大学の卒業式でのスピーチで、オプラ・ウィンフリーがこのことを印象的に語っている。

「25年間、毎日欠かさず人と話をして学んだ一番大きな教訓は、人の経験には共通点があるということです。(中略)どのインタビューにも共通していたのは、誰もがみな、認められたがっているということです。理解されたいのです。
 これまで3万5000回インタビューをしてきました。そして収録が終わった瞬間、言い方はそれぞれですが、一人残らず私にこう聞くのです。『あれでよかったですか』。ブッシュ大統領も、オバマ大統領も聞きました。ヒーローも、主婦も、犯罪の被害者も加害者もです。あのビヨンセでさえ言ったんですから。(中略)
 人は誰しも、1つのことを知りたいのです。あれでよかったのか。自分の声は届いたのか。わかってもらえたのか。自分が話したことは少しでも誰かに響いたのだろうかと」

 オプラが言っているのは、アプリシエーションのことである。アプリシエーションを示すことで、人は同僚や顧客、上司、パートナーと信頼関係や絆を築きやすくなる。

 そこで、周囲の人たちにアプリシエーションを示す簡単な方法を、いくつか紹介しよう。