●質問を工夫する
誠実な問いかけは、複雑な変化の過程でも信頼関係を強固にし、安心できて、敬意と支援がある職場環境を促進する。多くのことを知っているふりをする必要はないから、あなたが質問をすることによって、居心地の悪い沈黙や、権力と特権に関するぎこちないやり取りを乗り越えやすくなるだろう。
「私たちのダイバーシティとインクルージョンの溝を埋めるために、どのような変化を起こせばいいだろうか?」という質問のように、あなたの目標達成のために、周囲に課題を与えるという意味でははない。部下が日々直面している問題を、あなたが理解するための質問だ。特に、彼らに苦痛をもたらすような慣習や振る舞いに注目しよう。たとえば、次のような質問ができる。
・成果を出そうとするうえで最大の障害は何か?その障害を取り除く手助けをするために、私はどんな役割を果たせるだろうか?
・仕事でリスクを取ろうと思える、自分が貢献していると思える、コミュニティに属していると思える、そういう安心感があるか?
・あなたやほかの人を疎外する振る舞いや無意識な差別と取り組むために、どのくらい時間を費やしているか?
・いま、この会話は、誰かの意見を無視しているだろうか?足りない視点はないか?
・あなたを含む軽視されがちな人々の声を広く届けるために、私に何ができるだろうか?
言葉遣いの大失敗が不安なら──人種に関する用語を間違える、ジェンダーを表す代名詞などを間違えるなど──相手に正しい代名詞を確認したり、彼らの職場での経験に人種がどのように関係したりしているかを質問すればいい。多くの場合、彼らは自分が見られている、評価されていると感じて喜ぶだろう。
ただし、不条理な疎外や排除に耐えてきた人は、質問の内容によっては、抑え込んでいた感情が爆発するかもしれない。そのような場合は、あなたの質問に応じたいかどうか、相手の意思を尊重する。いまはあなたと話をしたくなくても、また別の機会をつくればいい。
何を質問するかだけではなく、どのように耳を傾けるかについても能動的に考える。個人的な判断はわきにおいて、受身的な反応を減らし、部下の返答を熟考する。相手の返答にあなたが関心を持っていることを伝え、相手を理解しているかどうか確認する。
リーダーは自分が使う言葉に対して慎重になるべきだが、不安が関心に取って代わられてはいけない。
●知識や情報を得る
企業や組織を運営するにあたり、不公平や不公正、抑圧の問題と向き合うための戦略書は存在しない。それでも、職場の力学や意見を理解するために役立つリソースはたくさんある。女性や有色人種、障害を持つ人、LGBTQ+、宗教的マイノリティなど、疎外されやすい人々が直面する問題や、インターセクショナルなアイデンティティの複合的な影響について、まずあなたが勉強しよう。
これらの問題に関する参考書は数多くある。どこから始めればよいかは、あなた自身の経験によって変わるだろう。しかし、少し学ぶだけで大きな効果がある(ここで推薦する書籍は人種問題を中心に選んだ。リーダーにとって最も難しい課題であり、職場において、ほかの種類の権力乱用の根本的な問題であることが多いからだ)。
人種について話をするための知識や力量を磨くためにお薦めするのは、イジェオマ・オルオ著So You Want to Talk About Race(未訳)だ。有色人種の女性の職場における経験を理解するには、ミンダ・ハーツ著The Memo(未訳)。アイデンティティ、ジェンダー、人種について学ぶなら、ジョディ・パターソン著The Bold World(未訳)。インクルージブなリーダーシップに関する概論は、ドリー・チュウ著The Person You Mean to Beが参考になる。
●居心地の悪さを受け入れる
現代社会のリーダーは、さまざまなレベルで複雑な変化に取り組みながら、言葉では説明できず、矛盾していて痛みを伴う人間関係の力学を理解しなければならない。その戸惑いは、当たり前のことである。
人種差別や性差別など、職場の不正義の問題と向き合う唯一の方法は、そのような居心地の悪さをありのままに受け止めることだ。
難しい問題について率直にコミュニケーションを取り、自分がけっして完璧ではないことを受け入れる。自分の間違いや視野の狭さを認めて謝罪し、誰かが正してくれたら感謝して、傷つけられた人や沈黙を強いられた人々の声に耳を傾け、改善に努める。そのうえで、もう一度立ち上がってリーダーシップをとれば、以前よりうまくいくだろう。
リーダーとしての行動は、二重の意味で影響力がある。周囲のためにあなたが立ち上がるというだけでなく、彼らも立ち上がっても大丈夫だというメッセージになる。
●とにかく行動を起こす
インクルージブな職場の実現に、近道や特効薬はない。とにかく始めるしかないのだ。
「ホワイトフラジリティ」[訳注2]についてチームで話し合う、人種差別の問題が起きたときに全員参加のミーティングを開く、あなたのジェンダーを表す代名詞を説明するなど、あらゆる機会を通じて、リーダーであるあなたは影響力のある立場にいながら、仲間として力強いメッセージを送ることができる。
2)白人脆弱性。白人が人種差別に対して抱く弱さや不快感。人種差別を指摘された白人が反発すること。
"Getting Over Your Fear of Talking About Diversity," HBR.org, November 08, 2019.