ストレスを軽減できる職場環境をつくる
職場で何が求められているかが不明確だったり、非合理に厳しい締め切りを課されていたり、仕事のペースがあまりに慌ただしかったりするなど、ストレスが強い環境で働く人は、「闘争・逃走反応」に陥るリスクがある。これは、人間が脅威にさらされていると感じたときに起きる反応だ。
情動に関わる脳の部位(進化のプロセスで言えば、脳の中で原始的な部位だ)の影響力が強まり、長期的思考や戦略的思考、革新的思考の能力が減退する。この状態が長く続きすぎると、しまいには燃え尽きてしまう。それを防ぐには、安定した職場環境を築き、日々の業務の流れのなかにストレス軽減策を含める必要がある。
●心理的安全性を高める
社員が危険を感じていれば、職場で信頼感が育まれず、協働とイノベーションの妨げになる。エイミー・エドモンドソンは著書The Fearless Organization(未訳)で、心理的安全性を高めるための3つのステップを紹介している。
第1のステップは、社員に課す目標をはっきりさせ、社員が自分に期待されている内容を把握できるようにすること。
第2のステップは、誰もが自分の意見を尊重されていると感じられるようにし、リーダーがメンバーの意見を聞きたがっていると全員に伝わるようにすることだ。トップダウンで指示を言い渡す代わりに、メンバーを会議に招いて発言させたり、ブレインストーミングの場で意見を聞いたりすればよい。
第3のステップは、手ごわい仕事にやりがいを持てると同時に、不安を感じずに済む職場をつくること。失敗しても問題ないのだと、メンバーに理解させよう。型にはまらない思考を実践したメンバーを評価し、チームの一体感を再確認するために絶えず部下に意見を求めることも重要だ。
●業務時間の中に休憩を織り込む
人間の脳が集中し続けられるのは約90~120分程度。これくらいの時間が経ったら休憩すべきだ。だいたい2時間おきに、心身ともに休憩時間を取るよう促そう。
短い散歩を勧めてもよいだろう(長時間の会議が続くときは、特に有効だ)。オンライン上のカレンダーサービスの機能を使って、休憩を取るよう社員に思い出させてもよいし、リーダーが率先して休憩を取ることで手本を示してもよい。頭を休ませ、体を動かす時間をつくれば、安定して高いパフォーマンスを発揮するための心理的余裕が生まれる。
●集中したいときに個室を使えるようにする
大部屋型のオフィスは、どうしても気が散りやすい。その結果、ストレスが高まり、生産性が低下する。大部屋では、打ち合わせや意見交換のために、いつでも同僚に声をかけて構わないという雰囲気が生まれがちだ。
そこで、社員が仕事に集中したり、リラックスして仕事をしたりしたいときに、個室を使えるようにしよう。もしそのようなスペースがない場合は、「邪魔しないで!」という標識を掲げられるようにしたり、みんなが仕事に没頭できる「静粛時間」を設定したりしてもよい。
●業務時間と業務時間外の線引きを明確にする
チームのメンバー全員が同じ場所で働いていない場合は、一般的な業務時間外の時間帯に仕事上の連絡を取り合わなくてはならないケースが出てくる。しかし、仕事の時間とプライベートの時間の境界が曖昧になれば、ストレスの原因になる。ある研究によれば、仕事のメールへの返信を求められるだけにとどまらず、業務時間外にも常に返信を期待されることが大きなストレスになる。
そのようなストレスを減らすためには、業務時間と業務時間外の線引きを明確にし、それを厳守すべきだ。業務時間外に電話したり、メールを送ったりするのは、緊急の場合だけにしよう。その「緊急」の定義も厳しく運用すべきだ。
●柔軟な働き方を検討する
適応力の高いチームを築きたいなら、柔軟な職場環境を築く必要がある。メンバーが各自の事情に合わせて、仕事時間を柔軟に決められるようにしよう。個別面談で一人ひとりのニーズを把握し、ワーク・ライフ・バランスで苦しんでいる人が、ほかの働き方を選べるようにするとよい。