従業員エンゲージメントを高める

 数十年にわたるデータから明らかなように、従業員エンゲージメント(職場に対して抱く知的・情緒的な結びつき)が強まれば、いくつもの好影響が生まれる。ストレスが減り健康が改善し、仕事への満足感が高まるし、生産性が向上し、離職率が下がり、収益も増える。

 ●透明性を確保する

 自分の仕事が会社の長期と短期の目標とどのように結びついていて、自分がどのように貢献できているかわからないとき、人はどうしてもストレスが高まり、生産性が落ち込む。不確実性が高い状況では、その傾向が特に強い。

 リーダーは、メンバーが仕事の全体像を把握できるようにし、一人ひとりが会社の目標追求にどのように貢献しているかを理解させる必要がある。そのために必要な情報をメンバーに伝えよう。

 もちろん、すべての情報を公表するわけにはいかないかもしれない。もし公表できない情報を知りたがるメンバーがいれば、公表できない理由を説明すればよい。重要なのは、不透明な状況が生むストレスを軽減することだ。

 250万のチームを対象にした研究によると、マネジャーが毎日、直属の部下とコミュニケーションを取ると、そうでない場合に比べて、部下がエンゲージメントを抱く割合が約3倍も高い。ところが現実には、会社の戦略上の目標を詳しく説明されているという働き手は、全体の40%にすぎない

 ●適材適所を徹底する

 メンバーが自分の仕事を嫌っていれば、エンゲージメントは弱まらざるをえない。メンバーが期待と責任の面で自分の才能や長所に合った仕事を担当できるようにするために、直属の部下一人ひとりと頻繁に話し合おう。

 そうは言っても、仰々しい面談の場を設ける必要はない。部下がどのような情熱や関心、目標を抱いているかを尋ねればよい。そうした会話に基づいて、それぞれの部下がやりがいを感じられるような課題を割り振るのだ。また、それ以降も、部下が成功するために必要な手立てを提供するようにしよう。

 ●自主性をできるだけ認める

 可能な限り、チームの面々に決定権を持たせよう。どのような課題に取り組むか、いつそれを実行するか、さまざまな課題にそれぞれどのくらい時間を割くかを自分で決められるとき、働き手が深刻な燃え尽き状態に陥る確率は43%少なくなるとわかっている。

 ある研究によれば、部下が自立して働けるようにするには、まず上司の仕事ぶりをじっくり観察させるとよい。そのあと、上司の監督の下で練習させる。その際、部下にフィードバックを行い、独り立ちさせるタイミングを見計らう。

 ●部下の成長と進歩を重んじる姿勢を鮮明にする

 上司はすべてを自分でやろうとせず、部下の成長を促すことが重要だ。全員を1年や2年に1回のペースで昇進させるのは無理にしても、部下が成長と学習の機会を常に与えられていると感じられるようにする必要がある。

 その一環として、社内で異動しやすくすることも有効かもしれない。部下がキャリアの次のステップとして適切だと思う役職に移れるようにしよう。上司が部下の成長を本気で後押しすれば、上司と部下の間の信頼も深まる。

 ●称賛の文化を築く

 メンバーの努力や貢献を正式に評価するようにすれば、メンバーのストレスが弱まり、絆と帰属意識が強まる研究によれば、社員を評価する文化が強固な企業は、そうでない企業に比べて業績が良好で、社員の退職率も低い。努力が評価されるとわかれば、人々が過酷な仕事に対処しやすいのかもしれない。

 チームのミーティングは、特筆すべき成果を上げた社員を称賛するのに絶好の機会だ。一方、思いがけない場で、心からの称賛を表現することにも効果がある。新しい顧客を獲得した部下がいれば、みんなの前で褒め称えよう。また、デロイトの調査によれば、同僚同士が互いに評価と感謝を表現し合う文化を築ければ、社員が幸福感を維持し、自分の役割に満足しやすいとわかっている。

 ●使命感を生み出してエンゲージメントを高める

 メンバーが給料だけを目当てに働く場合、使命感を持って仕事に臨む場合より、仕事のパフォーマンスが悪化しやすい。その点、自分の仕事が実社会に大きな影響を与えていると思えれば、退屈だった仕事にやりがいを感じられるようになる。

 この状態をつくり出すための第一歩は、事業計画の中に使命感を織り込むことだ。ミッション・ステートメントの形で明示しないまでも、メンバーの仕事が社内の他部署と社会全体に役立っていると示すことにより、メンバーにそれを浸透させよう。また、採用活動の際も会社の使命を前面に押し出し、使命の実現に貢献できる人物を採用しよう。

 社員が燃え尽き症候群に陥り、そのまま放置されれば、社員の幸福感と会社のパフォーマンスに重大な悪影響が生じる。それを防ぎ、健全な職場環境をつくりたいのなら、ウェルネス・プログラムを本気で変革すべきだ。

 本稿で紹介した方策をそのヒントにしてほしい。それがうまくいけば、恩恵は、社員のストレスが和らぐだけではない。社員の幸福度が高まり、生産性が向上する結果、ビジネスも上向くだろう。


HBR.org原文:Making Work Less Stressful and More Engaging for Your Employees, November 05, 2019.

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ナタリア・パート(Natalia Peart)
博士。臨床心理士。フォーチュン1000企業でリーダーシップ・コンサルタントを務めた経験を豊富に持つ。カンザスシティ連邦準備銀行、ジョンズ・ホプキンス病院などに勤務したほか、非営利団体「女性地位向上センター(the Women's Center for Advancement)」のCEOを務めた。著書にFuture Proofed(未訳)