●雇用主は知識や肩書だけでなく、スキルを必要としている
世界の工業国ではいま、前代未聞の雇用ブームが起きている。歴史を振り返っても、仕事を見つけるのに、これほどいい時期はなかった。それは喜ぶべきことであるのは間違いない。だが、人々がやりたい仕事と、実際の求人の間には依然として巨大なミスマッチがある。
たとえば、米国の失業率は現在3.6%だが、740万もの求人が存在する。なぜか。
第1に、こうした就職口の一部は、「資格過剰」の大卒者には魅力がない。だからウォルマートは、トラック運転手に最高10万8000ドルを払うと言っているのに、まだ仕事の口が埋まらない。
第2に、一部の仕事は、要求されるスキルセットを持つ応募者が少ない。このため、たとえば組織の60%は、きちんとした能力を持つサイバーセキュリティ・アナリストが見つからないと嘆いている。
第3に、大卒者の数は増えているが、その資格が仕事にどう活かせるかには、大きな疑問がある。卒業後すぐに仕事を始める準備ができているか、あるいは、すぐに職場に価値を付与する能力があるかについては、懐疑的な見方を持つ雇用者が増える一方だ。たとえば、輝かしい学歴を持つ大卒者でも、自分の仕事をこなすために学ぶ必要があることをわかっていない、と不満を口にする事業主は多い。
自分が学んだこととは一致しない仕事に就く人も非常に多い。労働市場分析会社バーニング・グラス・テクノロジーズによると、大学卒業から10年経っても、学位を必要としない仕事をしている大卒者は20%にのぼる。
未来の仕事のかなりの部分が予測できないという事実を考えると、状況は一段と複雑になる。わかっているのは、ほとんどの大卒者のスキルとは大きく異なる領域のスキルが必要になるということだ。したがって未来の職場のポテンシャルは、華麗な学歴を示すことよりも、学習能力を養えるかどうかによって決まるだろう。
●学生は知識や肩書きではなく、仕事を求めている
学生が、大学教育に莫大な時間とお金を費やす最大の理由は、よい仕事を得るためだ。学生の3分の2は、「経済的安定」を最大の目標と見なしているのだ。
ところが、失業率が記録的な低水準にある一方で、能力以下の仕事に従事する人は極めて多く、大卒者の40%は、実際には自分のレベルを必要としない仕事に就いている。
学生が、学位取得と同じくらい、学習プロセス(あるいは知識の吸収)が重要だと考えているとも思えない。多くの人が、学位をもらえないがアイビーリーグ大学の教育を受けることと、アイビーリーグ大学の教育を受けずにアイビーリーグ大学の学位を取得するのとでは、どちらがよいと思うかを考えれば明白だ。
●大学で学ぶべきことは減っているのに、学費は高くなっている
医療費を別にすれば、米国ではこの20年間、高等教育ほど高額になったものはない。約200%もの上昇で、物価上昇を145%上回るペースだ。
いや、それよりも増えたものが一つある。学費ローンだ。米国ではクレジットカードローンよりも、自動車ローンよりも、ハイペースで増えており(600%)、その残高は史上最高の1兆4000億ドルに達する。なかには100万ドルもの学費ローンを抱える人もいる。
もちろん、ほとんどの大学の学位には投資利益率(ROI)が存在し、学位がある人のほうが、ない人よりも一般に裕福だ。だが、年間12%のROIをもたらすアイビーリーグの学位がある一方で、ROIがマイナスの学位も大量に存在する。また、大卒者が増えるほど、大卒者の付加価値が低下するのも事実だ。向こう数年で、大学進学者数は頭打ちになるはずだ、という予測が存在するのはそのためである。