では、企業は女性取締役の登用を推進すべきではない、ということなのか。もちろん、そうではない。

 企業は、できるだけたくさんの才能のある人材から選りすぐりの取締役を選ぶべきであり、市場のペナルティを回避しようと、そこから女性を排除することは逆効果になる。その一方で、取締役に女性を増やしさえすれば業績アップにつながると考えれば、期待はずれに終わるだろう。

 多様性擁護派は、ジェンダーが多様な取締役会は、男性ばかりの取締役会よりも優れた決断を下すと主張しがちだ。女性はそれまでにないインサイトと視点をもたらし、取締役会の認知力を多様化する。すると、取締役会は複雑な問題をもっとうまく解決したり、斬新な解決策を提案できたりするようになる、というのだ。

 だが、女性取締役のアプローチや経験が、男性取締役とは大きく異なるという証拠はほとんどない。学歴や職歴が似ていれば、なおさらだ。

 だとすれば、取締役会の認知力を多様性するためには、ジェンダー以外の多様性に目を向けるべきだろう。たとえば、取締役が弁護士(または法学部出身者)ばかりだったら、エンジニアや社会学者を加えるべきだ。米国人ばかりの取締役会は、外国人を増やすべきである。これは多くの場合、既存のネットワークの外から取締役を見つけてくることを意味する。

 多様性の定義を拡大しても、取締役選出プロセスにおけるバイアスを縮小しなければ、取締役会からマイノリティを締め出すことになりかねないと、懸念する声もある。だが私たちの研究は、多様性の焦点を、ジェンダーではなく専門性や経験にシフトすると(たとえば「新たに女性取締役を指名した」ではなく、「中国の専門家を指名した」と考える)と、結果的には、女性など現在取締役が少ないグループを助けることになると示唆している。

 女性取締役の選出を発表するとき、ジェンダーではない側面を強調すれば、いずれそれは、社会的目標を達成するための措置ではなく、最適の人材を登用するという会社のコミットメントを実行した結果だと認識されるようになるだろう。


HBR.org原文:Why Investors React Negatively to Companies That Put Women on Their Boards, November 25, 2019.

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イザベル・ソラル(Isabelle Solal)
INSEADジェームズ・アンド・キャスリー・ストーン社会経済的不平等センターの博士研究員。専門は労働市場と金融市場におけるジェンダーの役割。

カイサ・スネルマン(Kaisa Snellman)
INSEAD助教。組織行動学を担当。MBA課程で権力と政治、博士課程で組織理論を教える。ツイッターは@KaisaSnellman。