
創造性やイノベーションの阻害要因を検討するとき、マネジャーの多くはコンプライアンスなどの規制やリソース不足を指摘する。しかし、筆者らの研究によると、そうした制約の存在はビジネスの足を引っ張るどころかむしろ、プラスの影響をもたらすという。ただし、過度の制約は禁物だ。本稿では、マネジャーが適度な制約を設ける方法を示す。
最近の調査によると、イノベーションの最大の阻害要因だとマネジャーたちが考えているのは、コンプライアンス(法令遵守)関連の制約やリソースの不足である。この一般的な通念の通りなら、いっさいの制約を取り除くことが望ましいことになる。規則や制限をなくせば、創造性とイノベーション思考が花開く、というわけだ。
しかし、私たちの研究によれば、この常識は間違っているようだ。イノベーションは制約があるほうがうまくいく可能性がある。
私たちは、制約が創造性とイノベーションに及ぼす影響に焦点を当てた、145件の実証研究の結果を調べてみた。すると、適度な制約を課されたほうが好ましい結果が生まれやすいことがわかった。この現象は、個人に関しても、チームや組織に関しても見られた。制約が過度に大きくなったときにはじめて、創造性とイノベーションへの悪影響が生まれた。
シンプルな例を1つ紹介しよう。GEヘルスケアの心電計「MAC400」は、画期的なイノベーションにより、不便な土地における医療の質を目覚ましく向上させた。
MAC400は、エンジニアたちが厳しい制約を課されたことで生まれた製品だった。その制約とは、最新の検査を実施できて、検査1回当たりのコストが1ドル未満で、不便な土地に持ち込むために運搬しやすく(軽量で、バックパックに入れて運べる必要があった)、バッテリーで動く心電計を開発せよ、というものだった。しかも、与えられた時間はわずか18ヵ月、予算は50万ドルだけだった。この予算は、GEではかなり少額だ。実際、同社における既存の心電計の開発には540万ドルが費やされていた。
私たちの研究によれば、エンジニアたちは制約があったにもかかわらず成功したのではなく、制約があったおかげで成功できた。制約が挑みがいのある課題を生み出し、エネルギーを注ぐべき対象を絞り込む役に立てば、イノベーションが後押しされる。
私たちが検討した数々の研究結果によると、新しいものをつくり出すプロセスに制約がないと、人は現状に満足し、最も安易な道を歩む。よりよいアイデアを見出そうと努力するのではなく、最も簡単に思いついたアイデアでよしとしてしまうのだ。
それに対し、制約があるときは緊張感を持たざるをえない。創造性が問われる課題を突きつけられれば、さまざまな情報を探し、それをつなぎ合わせて、製品、サービス、ビジネスプロセスに関して斬新なアイデアを生み出そうという意欲が高まる。