アセンションは、系列の病院を訪れる何百万人もの患者をケアする過程で、莫大なデータを蓄積している。
かつてこの種のデータは紙のカルテに保管され、特定の場所と時間に患者のケアをする以外の目的に使われるときは、物理的に運び、抽象化する必要があった。しかし、ここ10年ほどの電子カルテの普及により、現在、こうした情報は電子文書として保管されており、患者を特定されない限り、必要かつ有用な場所にすぐに流用できるようになっている。
これは直接的には、患者に複数の恩恵をもたらす。
第1に、アセンション(と、おそらく他の病院)でケアを受けるとき、自分の病歴や治療歴にすぐにアクセスできること。第2に、アセンションの医師と看護師が患者のケアにあたるとき、同じような症状でアセンションの病院を訪れた患者全員の治療経験から学習できること。また、検索技術と人工知能(AI)を使えば、アセンションは関連する科学文献全体からわかることを、個々の患者にリアルタイムで援用できる。文献の量は極めて膨大なため、どれほど経験豊かで専門性の高い臨床医でも、最新情報を把握し続けるのは容易ではない。アセンションの経験を利用すれば、医療研究に幅広い情報をもたらすこともできる。
問題は、こうした電子データを画期的な方法で使用するためには、ほとんどの医療システムにはない、幅広い情報科学、分析学、そして研究スキルが必要なことだ。そこで論理的な対応策となるのは、アセンションのような医療機関が、必要な能力を持つサードパーティと提携することだ。それが、グーグルだった。
グーグルにはAIの分野を含め、アセンションとは比べ物にならないITスキルがある。そしてグーグルは、全米に名を馳せる臨床医の研究者を大量に取り込み、ヘルスケア情報学の分野での人材を大量に確保してきた。
グーグルだけではない。IBMのワトソンは、この分野に登場して久しい。アマゾンとアップルも追随しているようだ。さらに、患者のデータを掘り起こして、ヘルスケアに付加価値をもたらすことに対して、ビジネスチャンスを見出しているスタートアップは数多い。
米国経済の18%を占めるヘルスケアが、突然デジタル時代に突入するとき(そして想像もつかないほど大量の未活用データをもたらすとき)のビジネスチャンスは巨大だ。グーグルは今回の提携で、アセンションに支払いを求めないと報じられているが、グーグルが医療情報科学という発展途上領域で行う作業の探索的性格を考えると、それは事実である可能性が高い。しかし未来の契約相手は、それほど幸運ではないだろう。