時には焦らず、待つことも重要

写真中央:武田雅子氏、写真右:一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事 荻野淳也氏、写真左:同理事 吉田典生氏。

 3つのコンディションが整わないとき、多くのビジネスパーソンはどう回復させるべきかと頭で考え、理詰めで思考から立て直そうと試みる。実は、それが問題だと荻野氏も同意する。

「頭と体と心、どれから回復させるべきかといえば、まずは体や心なのです。そこで有効なのが、マインドフルネスです。座禅や瞑想を通して体や心の不調に気づき、落ち着かせることできます」

 疲れ果てた状態では健全な思考もできない。体や心の不調をまず回復した後に、思考を回復するのがレジリエンスの鉄則だと荻野氏は言う。

 武田氏も、「最も危険なのが、体や心の不調に耳を貸さず、思考を酷使し続けることです」と同意する。そのような状態が続くと、バーンアウト(燃え尽き症候群)やメンタルの病にかかるリスクが飛躍的に高まるからだ。

 日々の多くのストレスは、このようなセルフマネジメントで回復できるが、ときにはそれでは収まらない出来事も起きる。人生を左右するような大きな危機や困難からの回復には、時間の助けも必要である。荻野氏はメタ認知の観点から、このように説明する。

「人間は、時間が経過すればするほどメタ認知が高まり、自身の状況を俯瞰的かつ冷静に見ることができるようになります。その結果、失敗や挫折から前向きな意味を見出すことができ、それが次の挑戦への原動力となるのです。ですから、状況や自分自身へのネガティブな判断や評価は保留して待つことも、レジリエンスに欠かせない要素だと言えます」

 武田氏も賛同する。「がんの治療の過程では、医師に『いつになったら、前のようにフルスロットルで働けるのか?』と訴えていました。そこで医師から、『武田さん、時薬(ときぐすり)という言葉がありますよね。焦らず待つことも重要なんですよ』と言われたのです」

 一日でも早く治したいと頭で焦っても、心と体の回復が伴わなければ意味がない。「その言葉に納得し、今も大事にしています」と武田氏は微笑んだ。

 不確実性を増すビジネス環境において、レジリエンスは個人にとっても組織にとってもますます重要となる。武田氏は最後に、執行役員としての経験から、組織のレジリエンスをいかに高めるかについて以下のように補足した。

「イノベーションや変革などの難しい課題の達成に欠かせないのが、組織の心理的安全性を高めることです。何もしないでいるより、チャレンジして失敗した従業員の方が評価されるような風土をつくることが、組織のレジリエンス向上につながるでしょう」

※組織のレジリエンスについて、SIYLI(サーチ・インサイド・ユアセルフ・リーダーシップ・インスティテュート)CEOリッチ・フェルナンデス氏のインタビューはこちら
※武田雅子氏のチャレンジについては、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2019年9月号のインタビュー記事「挑戦する組織に向けて『楽しく働く人』を増やす」を参照
※EI(Emotional Intelligence)シリーズのラインナップについては、EI特設サイトをご覧ください。