法人営業は売り手本位で顧客不在

「顧客バリュー・プロポジション」(提供価値)は最近、法人営業の世界で頻繁に使われる言葉の一つである。ところが、その取り組みについて調べてみると、バリュー・プロポジションの構成要素やその説得力を高める方法には、これといった指針がないことがわかる。

 それどころか、コスト削減などのメリットを主張するのに何の根拠も示さない企業も多い。しかし、具体的な説明やデータがなければ、それが本当だったとしても、大風呂敷だと見なされかねない。顧客企業の購買担当者は、コスト削減の責任を負っており、これは年々重くなる一方である。彼ら彼女らは何の証拠もないまま、サプライヤーの言葉をうのみしたりしない。

 あるICチップ・メーカーの例を紹介しよう。同社は、電子機器メーカーが次世代製品向けに500万個を購入してくれないものかと考えていた。しかし、ある電子機器メーカーとの話し合いのなかで、単位価格が10セント安いサプライヤーがほかにあることがわかった。

 この電子機器メーカーは、各サプライヤーの営業担当者に「製品の売り」について尋ねた。その時、このICチップ・メーカーの営業担当者がアピールしたのは、自分が個人的に提供するサービスである。

 しかし、彼はこの時、顧客企業がすでにバリュー・モデルを導入していることを知らなかった。実はこのICチップ・メーカーの製品は、価格では競合製品に10セント劣っていたものの、価値では15.9セント優れていたのである。次世代製品の開発プロジェクトを指揮するエンジニアは、価格が高いとはいえ、この会社の製品を選ぶように購買マネジャーに進言した。

 営業担当者が提案したサービスもたしかに価値があった。しかしそれはわずか0.2セントほどの価値だった。つまり、このICチップ・メーカーの製品には、この顧客企業にとって決定的な要素が2つあったわけだが、残念なことに、彼らはそれに気づいていなかったのだ。

 当然、それがどれほどの価値かも知らず、客観的に見れば、ライバル企業と比べてかなりの好条件を提示していることにも気づいていなかった。そのため、話し合いを重ねるなかで、自社の製品に価格に釣り合うほどの優位性がないと思ったのか、成約するために、10セントの値引きに応じた。その結果、少なくとも50万ドルの利益を棒に振ったのである。

 バリュー・プロポジションとは、マーケティング部門が広告や宣伝コピーに従って作成される一種の設計仕様書のようなものと割り切っている人もいる。しかし、これはあまりに近視眼である。

 優れたバリュー・プロポジションは、やはり業績向上に大きく貢献する。ただしそのためには、真に顧客価値を創造する要素に焦点を絞らなければならない。そのようなバリュー・プロポジションを提案できる企業では、顧客をすみずみまで知り尽くすための仕組みが整っており、経営資源の最適配分の下で、製品開発できるようになっている。