プレゼンにおけるバイアス

 ベンチャーキャピタルの投資決定プロセスは、投資先候補の選定(ディールソーシング)、投資家によるプレゼン(ピッチング)、適正評価(デューディリジェンス)、完了手続き(クロージング)という、4つの段階を経て進む。この中で、どうしてプレゼンの段階に着目するのか。

 後半の2つの段階は専門性が高く、数字が重んじられるため、バイアスが比較的入り込みにくい。一方、投資先候補の選定プロセスは人的ネットワークに依存する面が大きいので、バイアスが介在しやすい。しかし、そのバイアスは目に見える。あるベンチャーキャピタリストの投資を受けた起業家がことごとく男性だとすれば、女性にチャンスを与えていると主張しても説得力がない。

 それに対して、プレゼンの段階では、バイアスが目に見えない形で意思決定に影響を及ぼすケースがある。実際、いくつかの研究によれば、プレゼンのプロセスでは、さまざまな面で強力なジェンダーバイアスが作用している。

 たとえば、2014年の研究では、まったく同じスライドと原稿を、男性の声でプレゼンさせたものと、女性の声でプレゼンさせたものを実験参加者に聞かせた。このとき、「発表者」の写真を添えたものと、添えていないものを用意した。そして実験参加者に、投資家になったつもりでプレゼンを採点させた。

 すると、男性の声のプレゼンは、女性の声のプレゼンより高い評価を受けた。最も高い評価を得たのは、ハンサムな男性の写真が添えられたものだった。採点者の性別による違いは見られなかった。

 この研究を行った研究者たちは、こう結論づけている。「投資家は、女性起業家のプレゼンより男性起業家のプレゼンを高く評価する。プレゼンの中身が同じでも、このようなことが起きるのだ」

 プレゼンの際に起業家がどのような質問を受けるかも、バイアスの影響を受ける。

 2017年の研究によると、ベンチャーキャピタルに対するプレゼンの際に投げ掛けられる質問には男女で違いがある。180人の起業家と140社のベンチャーキャピタルが参加して行われた「テッククランチ」のコンペでは、男性起業家はもっぱら「前向き」な質問(明るい要素や期待される利益について)をされたのに対し、女性起業家はもっぱら「問題回避」のための質問(損失を被る可能性やリスク軽減策について)をされたという。前者のタイプの質問をされた起業家は、後者のタイプの質問をされた起業家に比べて、調達できた資金が少なくとも6倍に上った。

 プレゼンのプロセスが女性に不利な状況を生みやすい理由は、ほかにもある。問題の原因は男女の自信格差だ。競争的な環境に身を置いたとき、女性は男性に比べて自己評価が低くなりがちなのだ。その結果、「自信なさげ」だと投資家に思われてしまう(もっとも、このテーマに関しては、専門家の意見が完全には一致していない。そもそも、これが女性にとって本当に不利な材料なのかという議論もある。自信が乏しいことで自信過剰とうぬぼれを避けられれば、それは強みになる面もあるかもしれない)。

 私たちの経験から言うと、女性はプレゼンで数値指標に土台に話す場合が多いのに対し、男性はスケールの大きなビジョンを打ち出す場合が多い。統計データはないが、私たちは長年にわたり、ビジネスの現場でこうした現象を目の当たりにしてきた。この現象を生む一因は、男性と女性の自信格差にあるのかもしれない。

 いずれにせよ、ベンチャーキャピタルは、突出した成功を収められる可能性の持ち主を探しているので、女性起業家の控えめなプレゼンにあまり心を動かされないのだろう。

 プレゼンで女性が不利なことは、ベンチャーキャピタルに売り込みたい起業家たちも気づいている。おそらくジェンダーバイアスを回避する目的で、女性CEOがプレゼンをせず、あえて地位が下の男性にプレゼンをさせるケースもしばしばある。しかし、この戦術は裏目に出ることが多い。投資家はほぼ例外なく、創業者や最も地位の高い人物の話を聞きたがるからだ。