
自分を変えたいと思ったとき、人は「野心的で手ごわい目標」を設定する習性がある。それは、いまデザートをおかわりしたばかりの男性が、もう甘い物は食べないと心に決めるようなもので、ほぼ達成不可能だ。筆者は、本当に変わりたいのであれば、ばかばかしいほど小さな習慣から始めることを提案する。本稿では、自己変革に成功するための5つのステップを紹介する。
テーブルを囲む6人の表情は、企業の会議室ではあまり見かけないものだった。おどおどした感じの人もいれば、動揺した様子の人や、バツが悪そうな人もいた。この面々は、誰もが目覚ましい成功を収めている野心家で、上司の指名により、リーダーシップ研修に参加することになっていた。
この日、柄にもない表情を浮かべていた原因は、その直前に受けたアセスメントにあった。アセスメントにより、6人のほとんどが時間とエネルギーのマネジメントに関して、本格的な危機に陥っていると指摘されたのだ。
その指摘を受けて、6人は同僚同士のコーチンググループをつくり、自分たちの行動のささやかな改善点を見つける作業に取り掛かった。私はこれ以前にも、同様のグループ単位のコーチングを何十件も手掛けてきた。それまでのグループもそうだったが、この人たちも最初はきわめて野心的な計画を立てた。
高い能力を持ち、大きな成果を上げていて、強いストレスにさらされているプロフェッショナルたちは、たいていそのような反応を見せる。一度もエクササイズをしたことのない男性が、毎日最低30分はジムで汗を流すと誓ったり、いつも夜中までメールのやり取りをしていた女性が、毎晩寝る前に1時間の読書をすると計画したり、いまデザートをおかわりしたばかりの男性が、もう甘い物はけっして食べないと心に決めたりといった具合だ。
あなたも似たような経験があるだろう。人は問題に直面して、自分の行動パターンを改める必要を感じると、いきなり大きな目標を掲げがちだ。その結果、目標を達成できず、悪循環に陥る。それまで大きな成功を収めてきた人は特に、大成功か大失敗という行動パターンにはまり、「野心的で手ごわい目標」を設定する習性がある。
しかし、大きな目標は、モチベーションをかき立てるより、むしろ重荷になる面が大きい。多忙な日々の中で大きな目標に向けて歩み続け、それを達成しようと思えば、途方もない努力が必要とされる。しかも、崇高な目標を達成できなければ、人は意気消沈し、好ましい行動をいっそう取りにくくなる。力強く前に進むのではなく、ずるずると後退してしまうのだ。
大志を抱くのは素晴らしいことだが、本当に大きなことを成し遂げたい人は、まずは小さく始めるのがよい。つまり、小さな習慣を取り入れることから出発すべきなのだ。大きな課題を細分化して取り組みやすくし、段階的に好ましい習慣を身につけていけるようにすれば、大きな目標も達成しやすくなる。
私がジムで走る習慣を身につけようとしたとき、最初に実践した小さな習慣は、寝る前にジム用のウェアを用意し、翌朝まずそのウェアに着替えるというものだった。そうやってジムに通う習慣が身につくと、次に取り入れた小さな習慣は、毎日トレッドミルで10分間歩くことだった。2年後、私はついに10キロのレースに出場した。これは、それまで数十年にわたり目指していたけれど、達成できずにいたことだった。小さな習慣は、達成困難に見えた目標を達成可能なものに変えたのである。
小さな習慣を通じて自分を変えるという考え方は、目新しいものではない。これまでも多くの論者がこの方法論を論じ、それについて書いてきた。しかし、それを実践できない人が多い。
小さなことを実行するより、大きなことを考えるほうが好ましいという固定観念が根を張っているし、実際、そのほうが評価されやすい。私たちは、小さな課題を実践することをばかげていると考え、時間の無駄と感じ、そうした取り組みをなかなかしようとしない。
日常の行動パターンを変えることは、一般に思われているより難しい。一夜にして劇的な変身を遂げることは、まずできない。それが可能なら、誰もがとっくの昔に自己変革に成功しているはずだ。
しかし、大きな変化だけでなく、小さな変化も簡単ではない。人は、自分の行動パターンを少し変えることにも強い抵抗を示すものである。この点を見落としている人が多いが、染みついた習慣や行動パターンを改めることは常に難しいと思っておくべきだろう。
小さな習慣を新たに取り入れる場合は、それを継続するために、しっかり計画を立てて、入念に段階を追って行動する必要がある。以下の5つの段階を経て、小さな習慣を取り入れてみてはどうだろう。