●ばかばかしいくらい小さな習慣を選ぶ

 私のワークショップに参加する人はたいてい、本当に小さな習慣をなかなか選べない。3~8回再検討を重ねて、ようやく選べる場合が多い。

 たとえば、夜寝る前に1時間読書する習慣を身につけたいなどと言う人がいる。それに対し、それでは十分に小さな習慣とは言えない、と私は指摘する。すると、45分読書すると言う。それでも駄目だと私が言うと、今度は30分だと言う……といった具合だ。

 そこで、私はしまいにこう言い渡す。「『こんなにばかばかしいくらい小さなことは、やる意味がない』と思えてはじめて、あなたは本当に小さな習慣を選べたと言えるのです」

 読書なら、まずは毎晩1パラグラフ読むことを目標にすべきだ。私たちのコーチンググループでは、最低限の目標を達成することが評価される。それ以上の成果を上げても、さらに評価が高まることはない。

 ●日々行っている行動に便乗する

 新しい行動パターンを毎日継続し、それが癖のようになることが望ましい。その点、小さな習慣は、最小限の努力で毎日実践できるという利点がある。十分に小さな習慣を選べば、明日に先送りしようという誘惑に屈しにくいのだ。とはいえ、どんなに小さな課題でも、人はいとも簡単にほかのことに気が散ったり、やらない言い訳を見つけたり、単に忘れてしまったりする。

 そこで、すでに無意識に行っている行動と同時に(あるいはその直前に)新しい行動を行うようにするとよい。毎晩寝る前に1パラグラフ読書するようにしたい? それなら、寝る前の歯磨きをしながら読めばよい。毎日30分の瞑想を習慣づけたい? それなら、コーヒーを沸かしている間にやればよいだろう。

 ●実践状況を把握する

「計測すれば達成される」という言葉がある。これは、新しい習慣を身につけることにも当てはまる。しかし、計測に手間がかかりすぎると、そもそも計測することをやめてしまう可能性が高い。

 私がコーチングをしている顧客は、「Yes List」を用いている人が多い。これを使えば、20秒で実践状況を記録できる。取り入れたい習慣について、「Y(イエス)」か「N(ノー)」を毎日書き込む。

 これを実践した人は、大きな効果を実感する。たとえば、どのようなときに新しい取り組みが進展する可能性が高く、どのようなときに後退する可能性が高いかというパターンが見えてくる。

 ●しばらくは目標を大きくしない

 欲張りすぎずに「小さく始めよう」と考えるのも難しいが、それに輪をかけて難しいのは、目標を小さなままにしておくことだ。

 ジェイクという顧客が最初に設定した小さな目標は、毎日2回腕立て伏せをするというものだった。「Yes List」で10日続けて「Y」を記録すると、欲が出てきて、腕立て伏せの回数を5回に増やした。それを2日続けると、次は1日の回数を10回に増やした。さらに、腕立て伏せのあと、20分間のエクササイズも始めた。

 その後、どんな悲劇が待っていたか。2ヵ月も経たないうちに、ジェイクはトレーニングを一切やめてしまった。目標を引き上げるのが早すぎたのだ。少なくとも2週間続けて物足りなさを感じるようになってはじめて、目標を引き上げてよい。まずは、目標を10%高めることから始めよう。

 ●継続するために他人の力を借りる

 1日に1パラグラフ読書したり、腕立て伏せを2回行ったりすることを誰かに監視してもらうなんて、ばかばかしいと思う人もいるかもしれない。しかし、新しい習慣を定着させるには、誰かに見張ってもらうことが有効な場合もある。お互いに監視するようにすれば、お互いにメリットがある。

 本稿の冒頭で紹介したリーダーシップ研修では、隔週でメンバーが集まるようにしているほか、小さな習慣の定着状況について毎週報告させている。週のうち何日、新しい習慣を実践できたかを報告させるのだ。小さな習慣を実践できない日が多い人がいれば、ほかのメンバーが手伝って、目標を修正したり、実践の妨げになる要因を是正したりする。

 このようなグループに加わっていない人は、自己変革を目指す友人たちに声を掛けてグループをつくればよい。3~6人くらいのグループがよいだろう。メンバー同士が毎週「Yes List」を見せ合うことを提案する。重要なのは、一人だけに頼るのではなく、グループをつくることだ。そうすれば、誰かが抜けてしまっても、監視体制を継続できる。

 小さな習慣を実践できなかったときに理由を誰かに説明しなくてはならないと思うだけでも、実践の後押しになる。メンバーに状況を報告する直前に実践するケースも多いかもしれないが……。

 新しい習慣を身につけたい場合、いきなり大きな目標を立てて動き出せば、時間の無駄になることが多い。ささやかな目標から出発し、少しずつ目標を大きくしていき、次第に新しい習慣が体に染みつくようにしよう。まずは小さく始めること。そのほうがのちに得られる成果は大きい。


HBR.org原文:To Achieve Big Goals, Start with Small Habits, January 20, 2020.


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