
自分たちの組織に忠誠を誓い、一生懸命に仕事をしてくれる人は信用できる。ただし、その気持ちが行き過ぎると問題だ。かつてライバル会社で働いていた人物や、過去に競合他社がクライアントだった弁護士などを雇うと、彼らは自分が信頼に足る人間で裏切り者ではないことを証明するために、前職の関係者や以前のクライアントに対して過剰に攻撃的な態度を取る。その結果、損失を被るおそれがあることがわかった。
こんな経験はないだろうか。「ある取引の競争相手がかつての同僚だった」「採用候補の中に元同僚がいて、選考に苦慮した」「クライアントの買収あるいは訴訟案件で、相手方の顧問弁護士が以前別件で協働したことのある弁護士だった」
これらのシナリオには共通点がある。それは現在のクライアントやステークホルダーが、あなたの忠誠心を疑うきっかけになる可能性をはらんでいることだ。
現在のステークホルダーを利用して、元同僚に有利な契約をまとめるのではないか? 雇用主の利益に反してでも、元同僚が採用されるように便宜を図るのではないか? 相手方の顧問が元パートナーであっても、現在のクライアントを徹底して擁護するだろうか? 忠誠心を疑われるとやる気を削がれるが、それだけでなく評判に傷がつくおそれもある。
このような疑いを晴らそうとするとき、プロフェッショナルはどのように振る舞うのだろうか? そして、その結果どうなるのだろうか?
この疑問を端緒として実施した調査の内容を、近刊の『アドミニストレイティブ・サイエンス・クォータリー』誌にまとめた。調査では、彼らは現在の役割に対する忠誠心が揺るぎないことを示すために、かつての同僚や協力者に対し、議論をふっかけたり、攻撃的な姿勢を取ったりすることが多かった。闘志盛んな交渉人、喧嘩腰の人事面接官、敵意を燃やす企業顧問を演じて見せれば、自分の忠誠心を現在のステークホルダーに証明できる。
ここで問題になるのは、そうした態度が、納得させたいと思っているステークホルダーに損害を与える可能性があることだ。
パラドックス
企業は、競争相手が存在する状況で重要な決断を下したり、代理人を立てたりする必要に迫られたとき、抜け目がないものだ。有力な人脈を持つ人を探し出し、助言を求め、代わりに交渉や取引に当たらせる。
彼らが求めているのは、競争相手とつながっている人物であり、コネクションを使って競争相手の内情をスクープすることと、既知の間柄ならではの円滑な取引である。人脈を活用して状況を好転させ、場合によっては競争相手よりも優位に立つことを期待している。
企業は、そのようにパイプが太く、人脈豊かなプロフェッショナルを求めると同時に、その人に対して絶対的な忠誠を求める。これは矛盾している。かつての同僚とライバルとして戦うとき、この2つの要求は当然ぶつかり合う。相手とのつながりが内部情報の取得や協働的解決を可能にする反面、当人の忠誠心を損ねかねないのである。
たとえば、こんな例について考えてみよう。別々の法律事務所に所属する弁護士2人が、アマゾンの代理人として共同で裁判を起こした。その後2人は、それぞれアップルとサムスンの代理人として法廷で争った。
彼らが過去に協力し合った事実は、ともすれば2人の現在のクライアントに対する忠誠に疑問を投げかける。知り合いである2人は、クライアントの最大利益のために必死で戦うことをやめて、適当な落し所を探ることが考えられるからだ。