高級品のeコマース小売業者で行った
大規模なフィールド実験による証拠
私たちはカタログの有効性を検証するため、世界各地に顧客を抱える、米国拠点の高級時計と宝石の専門店の協力を得た。この会社は実店舗を持たないeコマースの小売業者であり、年間収益は6000万ドル、営業利益は1200万ドルで、約2万8000人の顧客データベースを持つ。
この会社は、インターネット検索やその他のオンライン・プラットフォームを通して新規顧客を獲得しているので、顧客は皆、eコマースやデジタルコミュニケーションに抵抗がない。同社の収益の75%超は反復購入によるもので、関係形成の努力が非常に重要である。同社では、顧客から最初の注文を受けたとき、その後のマーケティングの連絡をしてよいか許可を取り、毎週のメールマーケティングのキャンペーンで反復購入を推進している。
この会社は私たちのアドバイスに基づいて、プロが芸術的に撮影した商品の写真を高品質の印刷で仕上げたカタログを使い、隔月のキャンペーンを新たに開始した。そして、無作為に選んだ米国在住の顧客の30%を対象にフィールド実験を行った。
対象顧客のうち5%には6ヵ月間、メールもカタログも送付せず、55%には毎週、マーケティングのメールを送付し、40%には毎週のメールマーケティングに加え、隔月で新しいカタログを送付した。コンテンツの効果を統制するため、商品の90%以上はメールもカタログも同様にした。また、どちらの媒体でも同じ写真と説明を使用した。その後、私たちは3つのすべてのグループについて、商品の購入と問い合わせについて追跡した。
その結果、「メール+カタログ」のグループは「メールのみ」のグループに比べて、売上げが15%、問い合わせが27%増加したことがわかった。
「メール+カタログ」グループはコントロールグループと比べて、売上げは49%、問い合わせは125%増加した。一方、「メールのみ」のグループはコントロールグループに比べて、売上げは28%、問い合わせは77%しか増えなかった。カタログによる売上げと問い合わせの増加は、メールマーケティングのほぼ2倍だった。
さらに同社のスタッフの調べによると、カタログを送付され商品の問い合わせをした顧客の90%以上が、カタログに目を通し、平均7日間保存していた。開封率は、メールのキャンペーン(約26%)よりもはるかに高かった。6ヵ月の実験期間で、メールのみのグループの商品購入の追加は平均0.3個だった。
ROI(投資収益率)をざっと計算すると、カタログキャンペーンにより、平均注文サイズ6700ドルの売上げが15%増えると、粗利益率を約30%としたとき、顧客一人あたりの追加利益は90ドル(年間の追加利益は180ドル)になる。デザインの初期コストを含む郵送平均コストは5ドルで、直接的なROIは600%だ。
問い合わせが増えることにより、カスタマーエンゲージメントが増すことは言うまでもない。もしこのキャンペーンを全顧客層に広げれば、同じレスポンス率で、年間収益の増分は500万ドルを上回り、現在の収益レベルから40%上昇する。
最後に、私たちは「メールのみ」と「メール+カタログ」のグループから、それぞれ無作為に選んだ500人の顧客にアンケートをとり、メールとカタログから受ける印象の鮮明さを測定した。彼らには、カタログのデザインの評価と改善のための調査だと説明して、以下の2つの質問をした。
(1)商品を身に着けている自分を、どのぐらい想像できますか?(1から7までの評点。1=あまり想像できない。7=とてもよく目に浮かぶ)
(2)メール(またはカタログ)の商品の説明は、どのぐらい鮮明に感じますか?(1から7までの評点。1=鮮明ではない。7=とても鮮明)
メールのみのグループの平均評点は4.3、一方、カタログありのグループの評点は5.6で、統計的に有意な差だった。これらの調査結果は、カタログが商品の印象の鮮明さを増して、商品を想像しやすくすることにより、売上げの増加とカスタマーエンゲージメントに貢献できるという証拠である。