なぜカタログはいまでも有効なのか
以上の調査を、小売業者の動向や消費者心理と組み合わせて検討すると、カタログは、どんどん収拾がつかなくなる受信トレイやソーシャルメディアのフィードとは別格であることがわかる。カタログは物理的に存在するので、メールが削除された後も長く消費者の家に残り、トップ・オブ・マインド(第一想起)が高まる。
何よりカタログの強みは、一定の商品について、消費者が商品の使用体験を視覚化し、想像しやすいようにして、商品の印象の鮮明さを高めるところにある。鮮明さは、購入過程での消費者の関与と喜びを高めて、消費者行動に大きく影響し、最終的には優先傾向や売上げに影響を及ぼす。楽しみや喜びや満足のために購入され、体験的要素を豊富に含む快楽消費の商品・サービスの場合、実用品に比べて鮮明さが特に重要である。
最後に、物理的な店舗には多くの費用がかかる。eコマースの小売業者、特に物理的な店舗を持たない、あるいは持ちたくない快楽消費カテゴリーの小売業者は、優れたデザインのカタログによるキャンペーンを活用すれば、より鮮明に、感触を伴い、記憶に残るように商品を提示することができる。それによって地理的制約や店舗関連費用にはいっさい縛られず、顧客の関与や忠誠心、そして売上げを向上できる可能性がある。
創造性と美と共感が
現代のeコマースの競争優位性を決定する
この研究から、人々が楽しみや喜びや刺激を求めて購入するような商品カテゴリーを展開するeコマースの小売業者には、美しいデザインに投資し、カタログ郵送を試みることをお勧めする。他のカテゴリーでもカタログが有効かどうかは、今後の研究課題である。
鮮明さに関する心理学的理論では、贅沢品のように視覚性に富むカテゴリーは、鮮明さによく反応し、家庭用品や洗剤、ホームセキュリティ・システムのような実用品や機能商品は、カタログの恩恵を受けないと考えられている。
小売業界が進化したように、カタログも進化してきた。もはや、シアーズの黄金時代を彷彿とさせるような、とりとめのない商品の羅列であってはならない。
むしろ、目を奪われるようなイメージをデザインし、商品を創造的に提示して感情をかきたて(例:高級クルーズ船のセレブリティ・クルーズ、高級百貨店のノードストロム)、ブランドが支持する高度な価値を体現した文章に商品イメージを織り込み(例:フランスのラグジュアリーブランド、エルメスが出版する文芸誌およびアート誌)、カタログを通して消費者が追体験できるような実体験のストーリーを語ること(例:ワインの小売業者KLwine.comは、スタッフのテイスティングのメモや、ワイナリー訪問の体験が掲載された紙のニュースレターを郵送している)に力を入れる必要がある。
物流と製造のアウトソーシングの集約が進み、条件がフラット化しているいま、もはや過去10年間とは異なり、業務効率だけではeコマースの差別化要因にならない。創造性と審美眼、消費者に共感して感情的なつながりを喚起する能力があるかどうかが、現代のeコマースにおける決定的な競争優位性の要因になる。カタログは、それを達成するための強力な媒体になりうるだろう。
HBR.org原文:Why Catalogs Are Making a Comeback, February 11, 2020.
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