ストックホルムのセーラ

 セーラは、カリフォルニア北部に育ち、西海岸の大学を卒業した後、いろいろな国で仕事をしてきた。20代後半のとき、修士号を取得するためストックホルムに引っ越した。両親が欧州連合(EU)出身で、セーラもEUの市民権を持っていたから、大学院の学費は無料。現在、セーラは環境分野の仕事をしていて、家族は夫と、生後6ヵ月と3歳の息子がいる。

 最初の子の妊娠に気づいたとき、セーラは大喜びしたが、少し心配もあった。上司はどう反応するだろう。米国なら、上司は困ったなという顔をするか、落胆した素振りを見せるかもしれない。でも、妊娠3ヵ月を過ぎたとき、ストックホルムの上司に話をしたところ大喜びしてくれた。

 セーラは、産後1年以上、育児休業を取得する計画を立てた。

 スウェーデンでは、新生児または養子一人につき給付金付きの育休を480日取得することができる。給付金を交付するのは国で、給料の80%が保障される(ただし、上限は月3万7000スウェーデンクローナ〔約39万3000円〕)。諸々の事務作業はスウェーデン社会保険庁がやってくれて、事業者の業績は影響を受けないから、セーラの上司にしてみれば、部下が出産すると聞いても困った顔をする理由がない。

 480日の育児休業は、2人親の合計の日数だ。この「2人親」には、同性愛者でも異性愛者でも、同棲中のカップルでも、夫婦でも、離婚したカップルも含まれる。2人がそれぞれ90日間の育児休業を取得し、残りの300日は、子どもが8歳になるまでの間に、2人が自分たちで取得方法を決めていい(ただし2ヵ月前までに雇用主に知らせることが条件だ)。

 セーラの夫は別のEU加盟国の出身で、スウェーデン国外で仕事をしていたから、スウェーデンの有給育児休業を受ける資格はない。したがって、セーラが一人で480日間の育児休業を消化することになる。

 セーラは、出産予定日の7週間前から育児休業を取得することにした。出産は2015年7月。ストックホルムの公立病院で緊急の帝王切開となり、3日間入院した。でも、セーラが負担した費用はゼロ。スウェーデンは国民皆保険制度で、出産費用もカバーされるからだ。

 育児休業中、セーラが受け取る給付金は米ドル換算で月1500ドルほど(税引後)だった。フルタイムで働いているときの給料よりも安いが、基本的な生活費をカバーする助けになった。セーラと夫は中流層の家族として、一時的な収入源にも対応できるレベルだ。

 もちろん、初めて親になった人なら誰でもそうであるように、セーラも大変な思いをした。何ヵ月もよく眠れなかったし、新生児との生活にぐったりする日もあった。子どもはしょっちゅう中耳炎になり、凍るように寒い公園でかんしゃくを起こした。夫の出張が多く、何週間も「一人親」を経験した。

 それでも、育休中に自分がクビになるのではないかとか、職場に復帰したときどう受け入れられるかを心配したことは一度もなかった。