今月号の特集テーマは、特集の第1論文のタイトル「ビジネス実験を重ねる文化が企業を成功に導く」が示しています。グーグル、フェイスブック、マイクロソフトなど今日の成功企業は、オンラインでA/Bテストなどのビジネス実験を頻度多く行い、その結果を尊重します。特集全体ではA/Bテストの実践法や、実験を活用する企業文化への転換法などについて詳述していきます。


 企業のオンラインテストとしてよく活用されるのが、A/Bテスト。現状のAに対して改良版Bを開発したら、即座にオンラインで実行し、顧客の反応を現状Aと比較し、Bへの切り替えか、さらなる改善か、あるいは中止か、を決めるのです。

 しかし、多くの企業では上層部や実績者の経験・勘などで決まる文化が根強く、実験の効用を受け入れず、成功企業との差を生んでいます。特集の第1論文では、ブッキング・ドットコムの成功事例をもとに、実験を尊重し、その活用で仮説・検証を繰り返す企業文化の構築法と効用を分析しています。

 特集2番目の論文は、ネットフリックスとリンクトインにおいてデータサイエンティストとして活躍した筆者らが、そこで習得したA/Bテストの実践法を明かします。多くの企業で陥りがちな3つの落とし穴として、「平均的なユーザーしか考慮しない」「顧客同士がつながっていることを忘れる」「短期的効果だけにフォーカスする」を挙げ、その回避方法を提示します。

 一方、ウォルマートやeBay、ピンタレストにおいて、A/Bテスト等の実験で成果を挙げてきたマネジャーが、それを経営に活かすポイントを語るのが3番目の論考です。実験文化を培う上での課題や、人材育成、現実的な意思決定法など、実務に関するノウハウを披露しています。

 こうした企業文化は、日本企業には馴染みにくいところですが、すでに育み、事業で結実させている企業もあります。特集4番目ではその代表的存在であるデジタルガレージが、ブロックチェーン技術で決済取引を変えるサービスをローンチさせる事例を説明し、背景にある実験型組織のつくり方を紹介します。

 特集5番目の論文はずばり、「日本企業が『実験する組織』に変わる方法」。ボストン コンサルティング グループがグローバルに蓄積した知見とコンサルティングの経験をもとに、この面での日本企業の変革を阻む5つの壁((1)組織構造、(2)意思決定、(3)人材・人事、(4)ダイバーシティ・インクルージョン、(5)リーダーシップ、における壁)を打ち破る方法を詳述します。

 特集以外も充実しています。論文「パーソナルデータの保護と利用をめぐるジレンマ」では、企業による消費者データの取得と活用において今後顕在化しうる問題やその防止策など、ネット時代の重要課題を精緻に分析しています。

 別の論文「職場の偏見をなくすためにリーダーがすべきこと」では、職場での性差別や人種差別などを排除する具体的な方法を提示していて、実践的です。

 巻頭では、野中郁次郎・一橋大学名誉教授と入山章栄・早稲田大学ビジネススクール教授による特別対談「困難な時代を乗り越える『いまこそ、知の作法を身につけよ』」を掲載しています。

 経営学とビジネス、いずれの世界においても、人々が集まり議論する中から知が誕生していくダイナミズムを実感できます。