自分自身の不安を認識しよう
この混迷の日々、他人に頼られる立場にあるあなたにとって重要なのはまず、自分の内なる不安が、周囲からの期待によって増幅するという事実を認識することである。
不安を感じていることを否定し、不安感を抑え込み、冷静なうわべを装うことが、むしろ取り乱して集中力を失う一因になっていることに気づいていないリーダーを、私は何人も見てきた。
自分をよりうまくコントロールするためには、自分の不安な気持ちを共有してくれる友人や同僚、コーチ、あるいはセラピストの助けを借りるといい。大切なのは、自分の不安の根源が何かを探ることである。
誰もがそれぞれの方法で、今回の危機に対処しようとしている。最悪のケースを想像する、という人もいるだろう。一連の痛ましい記憶を呼び起こすきっかけになっている人もいるだろう。
いずれにせよ、そのような感情を自分自身で認識することが肝要である。どのような感情も、永遠に続くものではないと覚えておこう。みずからの感情の揺れ動きを健全に扱う方法を心得ていれば、それが自分の中をうまく通過するよう促し、ネガティブな感情を他人にぶつけるおそれが低減する。
質問の裏にある要求に耳を傾けよう
危機の最中で我々が平静を失うことは、科学的に証明されている。
そうなると、2つの問題が生じる。我々はより強く不安を感じ、時には自分が何を求めているかがわからなくなる。しかし、あなたに投げかけられた、答えるのが難しい質問の裏に隠れている本当の要求が何かがわかれば、誠実に対応できる。
たとえば、前述のクライアントによる、冒頭のタウンホールミーティングを例に見てみよう。彼の虚を衝く質問をした人は、政府の補助金を得られるかどうかを知りたいわけではなかった。本当に知りたかったのは、失業するおそれがないかどうかだったのである。
したがって、彼は適当にあしらう代わりにまず、質問をきちんと受け止めたと伝えるべきだった。そのうえで、質問の根底に潜む要求に対処するとよかった。たとえば、こんなふうに答えられただろう。
「米国当局の経済刺激策に関連した補助金を受け取る資格については、まだよくわからない部分が多い。今後も、状況は刻々と変わるだろう。ただし、こうした新しい法が我が社にどのような影響を及ぼすか、専属チームが最新情報を追っている。
こうした質問の裏には、社員の皆さん個々の経済的不安や、景気減退が当社にどのような影響を及ぼすかという懸念があるのだと思う。当社や社員の経済的安定のために経営チームが何をしてきたか、そして何を計画しているかについて、いまから具体的に話そう」。
最初に寄せられた質問に誠実に答え、根底にある問題が何かを注意深く推測すれば、先のクライアントは信頼を保ったまま、誰も大っぴらに聞きたくなかった問いにも答えられたはずだ。
さらに、彼は広範な質問が寄せられることをある程度予想していたものの、答えようのない質問にどう対処するか十分に準備していなかった。もう少し準備していたら、「我々はこの嵐を乗り越えるべく、最善を尽くして、できる限りのことをやっていると断言する」といった、紋切り型の答えを繰り返さずに済んだだろう。
そのような答えは、真実であっても、まともに取り合っていないように聞こえ、不快な印象を残してしまった。