ウーバーの再生に必要なのは信頼だった

 2017年春の午後、ウーバー・テクノロジーズの創業者であり、当時CEOを務めていたトラビス・カラニックがサンフランシスコ・ベイエリア本社の会議室に入った。そこでは、筆者の一人、フライが彼を待っていた。「身から出た錆で深い痛手を負った我が社を再生に導いてほしい」と、米国・カナダ事業を担当するゼネラルマネジャーのメーガン・ジョイスから要請されたのだ。筆者らは創業者が率いる組織をはじめ、さまざまな組織を支援し、リーダーシップの迷走や企業文化の問題への対処で優れた実績を上げていた。

 筆者らは当初、ウーバーに懐疑的だった。同社に関する文献は、どれも再生の見込みがないとほのめかしていた。当時は破壊的イノベーションの代表格とされ、飛ぶ鳥を落とす勢いのスタートアップだった同社だが、その成功のために、必要最低限の節度すら、かなぐり捨てていたようだ。たとえば、2017年初めにトランプ大統領が移民や難民の入国を制限した際には、ニューヨーク市のタクシー運転手が抗議ストライキを起こしたすきに利益をかすめ取るような動きに出た。その結果、利用者の間で反発が広がり、同社のアプリを削除する「デリート・ウーバー」運動に発展した。

 その1カ月後、筆者らと面会する少し前には、スーザン・ファウラーという同社エンジニアが社内で受けたハラスメントや差別をブログで決然と公表し、反発はいっそう高まった。さらに、カラニックとウーバーのドライバーとの会話を記録した動画が公表され、「ウーバー後の世界で苦しい生活を強いられている」というドライバーの訴えをあざ笑うようなカラニックの態度が世間に知れ渡った。この時期には、ほかにも同社への批判が噴出し、競争に勝つためなら手段を選ばない冷酷な企業だという風評が強くなった。