一般に、理想の労働者とは、若いうちに就職してから40年間、フルタイムかつ全力で働き続ける人と定義される。
これは産業革命期に生まれた「一家の稼ぎ手と専業主婦」という家族観に基づく概念であり、1960年代にまとまった数の女性たちが労働市場に参入するまで、かなりうまく機能した。しかし、「理想の労働者」という概念は長い間、本業だけでなく家事をこなすことも期待された女性たちに、多くの犠牲を強いてきた。
「理想の労働者」という規範の重圧に苦しんでいるのは、女性だけではない。最近の調査によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連する仕事と家庭の両立問題で、仕事を辞めることを考えているという女性は14%にのぼった。だが、もっと驚きなのは、同じ理由で離職を考えていると答えた男性も11%に上ったことかもしれない。
筆者が所属する団体は「家族介護者への責任」に基づき、職場で差別を受けた人のための相談窓口を運営している。新型コロナウイルスの問題が起こる前から、会社の就業規則が時代遅れで、「主介護者」には数ヵ月の休暇が認められるのに、「副介護者」に認められる休暇は極めて短いという訴えを、多くの男性から受けていた。今回のパンデミックで、これまでよりも多くの家事を引き受ける男性もおり、この危機が男女の土俵を少しばかり公平にする役割を果たしたようだ。
もちろん、女性のほうが多くの責任を担っているのは間違いない。ここで言いたいのは、現代の女性も男性も、昔の「理想の労働者」の枠には収まらないということである。
いま最大のギャップは、働きながら子育てしているかどうかによって生じている。「法廷弁護士の仲間のあいだで、大きな違いがあることに気がついた。子どもがいない人は、ほとんどの場合、多くの仕事をこなす。私たちのように子どもがいる弁護士は、流砂に飲み込まれるように仕事をしている」と、サンフランシスコ在住の弁護士ゴードン・クナップは語る。
家庭での役割が見えない、理想の労働者像は崩壊しつつある。パンデミック以前、子育て中の社員は、小学校の発表会やサッカー部のコーチの活動にこっそり出かけたり、工場の駐車場の車の中で赤ん坊に授乳したりしていた。高齢の親を医者に連れて行くために、遠慮がちに席を外す社員もいた。
いまは、家庭での役割はさほどタブー視されなくなった。なにしろ、隠しようがないのだ。いや、いまはタブーの対象が変わった。仕事部屋に子どもが駆け込んで来て(かつてBBCであったことだ)、面目をなくすような頭の古い男たちは、いまや笑われる存在だ(周囲の期待ゆえに恥ずかしいと思うようになったのなら、笑われるのは不公平かもしれないが)。
新型コロナウイルスは、古い世代の理想の労働者と、よき父親とは毎日子どもの世話に関わる人間だと考える若い世代とのギャップを明らかにしてきた。
ある大企業の企業内弁護士は、こんなことを言っていた。「大変なときだけれど、一人ぼっちではないことをみんなにわからせるために、リーダーが子どもと犬と72歳の母親の世話をしている話をしてくれるおかげで、とても親しみが湧いた」