いま、リーダーシップが社会で広く求められています。VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の英単語の頭文字)の時代という言葉が流行って久しいところに、新型コロナウイルス感染症禍が起き、概念が現実になりました。未経験の窮地です。「答えのない時代を切り拓く」ため、「リーダーという仕事」が重要で、今日それはフォロワーと「ともに」担うべきである、という特集を、DHBR最新号では組みました。
特集最初の論文は総論です。前半は、リーダーシップという言葉の定義から始まり、過去どのような考え方が有効であったかを展開。簡にして要を得た解説で、古典的な行動論から、変革型、シェアード型などまで、リーダーシップ論の全体像がつかめます。
後半は、結果偏重とコンプライアンスの相反性、パーパス型の意義と課題など、今日の経営環境を踏まえて、「余白をつくる」「問いを重視する」「リーダーには想像力が大切」という具体的な提言を行っています。
特集2番目の論文では、エンパワーメント・リーダーシップを推奨します。リーダーの仕事は、フォロワーが能力を発揮できる環境を整え、自律的活動を促すことにあるとします。そこで不可欠なのがリーダーへの信頼。オーセンティシティ、ロジック、共感の3つの要素から、信頼を高める方法を論じます。
3番目の論文は、従業員が自律的に環境変化に適応することをリーダーが促す方法として、コーチングを推します。個人のコーチング習得法を詳述した後、それを組織能力へ昇華することの意義を説いています。2014年にマイクロソフトのCEOに就任したサティア・ナデラ氏が、同社に「成長マインドセット」を取り戻した事例が効果的で、わかりやすい論文です。
4番目の論文は、「セキュアベース・リーダーシップ:仲間を尊重し、チームの力を最大限に引き出す」。国際機関の設立に参画し、成長させ、事務局長に就任した河合美宏氏によるリーダーシップ論。多様な人材をまとめて目標を達成するには何が必要か、実体験に基づいていて、説得力があります。
リーダーに究極的に求められる力は判断力である、と論じるのは5番目の論文。判断力は、6つの要素(学習、信頼、経験、中庸、選択肢、遂行)が影響することを実証研究で突き止め、その習得法を提示しています。
特集の最後は、ソニーの社長、吉田憲一郎氏へのインタビューです。2年前、社長就任直後に注力したのが企業パーパスの明確化。創業74年のグローバル企業が、次の成長に挑戦していく段階にあって、あらためて自社の存在意義をグループ全体で共有することが大切と言います。施策は奏功し、最高益を更新しました。
カリスマ型からパーパスドリブン型リーダーシップへの移行は、今回の感染症禍の危機に際しても、想定通りに機能しています。
「パーパスには人の意欲をかき立てる絶大な力がある。報酬や昇進などの動機付けより、パーパスのほうが重要である」ことを調査で示すのは、特集に続くHBR論文「パーパスを実践する組織」です。
イケア、レゴ、アップルなどの事例から、パーパスを実現する組織をいかにつくるかを論じています。