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新型コロナウイルスによる影響を受け、企業は経営戦略の見直しが迫られている。世界を代表するコンサルティングファーム、マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナー陣に緊急寄稿してもらう本連載第8回では、「人事・組織」をテーマにする。コロナ禍の大きな変化の1つは、日本型企業では認められてこなかった在宅勤務がスタンダードになったことだ。働き方が柔軟になるにつれ、企業がより注視すべきなのが、働く時間の多寡ではなく、成果である。生産性を高めるための組織になるためには、人事・組織をどう変革すべきか。キーワードは「アジャイル型組織」にある。

 緊急事態宣言が解除されてから、徐々に新型コロナウイルス危機前の日常に戻りつつある。

 しかし、新型コロナ前の働き方にそのまま戻るのではなく、これをきっかけに今回、多くの社員が経験した在宅勤務をはじめ、新しい働き方を導入する企業が増えている。

 日立製作所などの大企業が「今後も在宅勤務比率を50%程度維持する」と掲げた目標は、中堅企業を追従させ、日本全体で、オフィスのフリーアドレス化、営業職の直行直帰、フレックス制度など働き方の柔軟性が増している。

 これらはみな望ましい傾向ではあるが、われわれマッキンゼーは「日本企業の経営者は、このポスト・コロナ、Next Normal(次なる常態・価値観)への移行を、より本質的な働き方の変革チャンスとして捉えるべきではないか」と考える。

新型コロナによって人事・組織変革の機会が到来

 高度経済成長を経て、日本企業は効率性を追求することによって、確固とした組織、プロセスを確立してきた。

 それがいまや技術革新が目覚ましいスピードで進み、反復可能な作業が自動化により機械に置き換わり、さらに顧客のニーズが多様化した。

 その中で、現状の組織やプロセスが不十分であり、変革が求められていることを多くの経営者が理解している。だが、その実行が十分にできていないという大きな課題が残る。

 この課題解決に資するのが、「アジャイル型組織」であるとわれわれは考える。

 アジャイル(機敏な)形態の組織とは、従来のトップダウンによる階層型の組織とは異なり、ボトムアップの共通の目的を持った、自律性の高いチームの集合体で、PDCAを短期間で回しながら実行する組織を指す。

 階層型組織は、官僚的な縦割り組織であり、その詳細な指示を待って社員が働くため、変化の対応に弱い。だが、アジャイル型では、1つの目的を持ったチームが集まっており、リーダーがその方向性を示すことで、その目的に目指して機動的に仕事を進められるのが特徴だ。

 もともとはITの開発などで多く使われていた組織形態だが、オランダの金融機関INGグループや、スウェーデンの音楽ストリーミング配信会社Spotify(スポティファイ)、中国の家電メーカーHaier(ハイアール)などが全社的に導入を進めたもので、日本でも試行されつつある組織の新しい在り方である。

 実際、アジャイル型を導入した50超の企業に対して行ったマッキンゼーとハーバード・ビジネススクールによる直近の調査では、今回のコロナ禍でアジャイル型組織が従来型組織よりも、市場の変化に迅速に対応できたことが明らかになっている。

 例えば、通信業界ではコロナ対応の新商品を開発するのにかかった日数は、アジャイル度の高い企業が低い企業より平均2週間早かった。