コロナ禍を原因とする景気後退が深刻化しています。不安感は社会に広く、長きに渡って浸透していると感じます。不安にどう向き合えばいいか。今月号では、HBRの最新論文を最速で翻訳して、第2特集を組みました。第1特集では、中長期にわたる危機と機会の視点から、気候変動について考えました。今月号は2大特集です。


 今年6月に閣議決定された『令和2年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書』(環境白書)では、気候変動の影響と見られる豪雨災害等を含む気象災害の激甚化から、現状について、人類を含む全ての生き物の生存基盤を揺るがす「気候危機」と表現しています。日本政府も、切迫した問題と捉えているのです。

 第1特集「気候変動」の1番目の論文は、経営コンサルティング活動と気候変動の問題に長年取り組んできた、『ビッグ・ピボット─なぜ巨大グローバル企業が〈大転換〉するのか』(英治出版、2019年)の著者、アンドリュー・ウィンストン氏による総論です。

 気候変動は企業に多大な影響を及ぼしており、経営対策は待ったなしと主張し、3つの変革を促します。ユニリーバ、P&G、ダイムラー、シーメンス、トヨタ自動車、アシックス、アップル、イケア、パタゴニアなど多くの企業名と実践例を挙げ、変革をイノベーションの機会に転じていることを詳述します。

 2番目の論文は、気候変動への関心が歴史的に最高水準に高まっていることを調査により明示します。企業はどうすべきか。日産自動車が電気自動車リーフを発売開始した際のCMを事例に、マーケティング視点の重要性を説きます。

 特集3番目は、経営者にとって最も重要な論文です。気候変動への対応は、投資家が求め、コスト削減につながるからです。投資が必要なため、CFOの責務が増します。

 国際機関の金融安定理事会や国際会計基準審議会が、企業による環境問題への関与を強く推奨する状況での、マイクロソフトやオラクル、ダノン、マニュライフなどの取り組みを紹介しています。

 プラスチックストローの削減の動きなどを扱う4番目の論考「廃棄物削減には業界を超えた協働が欠かせない」では、企業と消費者の橋渡しを行うサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実践者がインタビューに答えます。イオンやテスコ、カルフール、ウォルグリーンズなど世界の小売企業大手が加わる協働活動が明かされます。

 日本からの論考は2つ。特集5番目は、ヒアリなど外来生物問題の研究者で、サングラスと革ジャンがトレードマークの五箇公一氏の論文です。五箇氏は、コロナウイルス禍のようなパンデミックを長年、警告してきました。

 世界の森林開発が加速し、そこに潜む未知のウイルスによる新たな感染症発生の確率が高まっていたからです。これらは生態系崩壊や気候変動につながることを説明したうえで、解決の方向性を提示します。

 特集を締めるのは、日本を代表する建築家、隈研吾氏の論考です。隈氏は、コンクリートの大箱を乱立して環境に多大な負荷をかける建築のあり方に疑問を呈し、それは人間を不幸にすると訴えます。

 地球温暖化という新たな自然の脅威に直面する中、建築に何ができるのか。建築は人の暮らしや働き方をデザインするOSであり、自然と共生できるように書き換えるべきだと論じます。

 第2特集「不安とともに生きる」は、4本のHBR論文で構成されています。「不安を和らげる4つのステップ」「不安を抱えている同僚にできること」「部下のストレスを高めるリーダーの5つの振る舞い」「偉大なリーダーの『不安のマネジメント』に学ぶ」です。経営者、マネジャー、同僚として、「不安にどう向き合えばよいか」を、斯界の専門家がアドバイスします。

 巻頭では、「コロナ後のビジネスの未来」をテーマに、シスコシステムズなど5人の経営者と米国HBRの編集長による座談会を掲載しています。