本稿の筆者である私たちは10年以上にわたり、オープン・イノベーションについて研究し、膨大な人数の企業幹部や学生に分散型・分権型・参加型のイノベーションの方法を教えてきた。

 授業でそのような話をすると、しばしば「うちの会社には、もっとこのようなことが必要だ!」といった反応が返ってくる。しかし、企業はオープン・イノベーションへの強い意欲を示しはするが、ほとんどの場合はそれをやり遂げることができない。

 ハッカソンなどによりオープン・イノベーションを促進し、創造的なアイデアを大量に生み出したものの、そのアイデアを実行に移さず、社員やパートナーのいら立ちばかりが強まっているケースも珍しくない。分散型・分権型・参加型のイノベーションは、得てして見果てぬ夢のままになる。

 しかし、いま劇的に広がっているオープン・イノベーションの実践例は、この種の取り組みが(危機のときに限らず、平時においても)きわめて大きな可能性を持っていることに光を当てた。

 一言で言えば、オープン・イノベーションを通じて、有意義な成果を生み出す手段を増やすことができるのだ。そのために、自社に足りないスキルを持ったパートナーと新たに連携する場合もあれば、長年にわたるパートナーとの関係に新たな可能性を見出す場合もあるだろう。

 危機のとき、企業はオープン・イノベーションを実践することにより、社会が直面する切実な問題の新たな解決策を編み出し、しかも自社の好ましい評判を確立することができる。そして、それ以上に重要なのは、そうした活動が未来の協働の土台になりうることだ。社会学の研究によれば、パートナー同士が自発的に相手の期待を上回る仕事をし、思いがけない恩恵を施し合えば、相互の信頼が高まるとわかっている。

 オープン・イノベーションの試みには、知的財産権の保護や投資資金の回収、結果の不透明性などをめぐる懸念がついて回る。そうしたことを心配するのは理にかなっているが、現在の状況の下、イノベーションによって危機を乗り切り、その後も好ましい結果を得るためのチャンスが開けていることも事実だ。

 新型コロナウイルス危機での経験を通じて、これまでに得られた教訓は多い。そうした教訓を生かせば、企業はコロナ禍の中でオープン・イノベーションをうまく実践するだけでなく、コロナ後の時代にオープン・イノベーションを成功させやすくなる。

 以下では、オープン・イノベーションを妨げる要因としてよく指摘される問題と、それを乗り越える方法を紹介したい。