●新しいパートナーを受け入れる

 オープン・イノベーションでよく持ち上がる問題の一つは、新しいパートナーを受け入れることの難しさだ。

 新しいパートナーを探し、精査し、コンプライアンスを確保し、関係者の間に新たな人間関係を築くには、常にコストがついて回る。それでも、新型コロナウイルス感染症への対処など、手ごわい大問題と向き合うときは、既存のメンバーに不足しているスキルと視点を取り入れるために、新しいパートナーと手を結ぶことが不可欠だ。

 新型コロナウイルス危機においては、危機の規模が非常に大きかったことが影響して、少なくとも2つの点でこの問題が和らいでいた可能性がある。

 第1に、経営者たちは、オープン・イノベーションこそ進むべき道であるというメッセージを強力に発信し、新しいパートナーを受け入れることにまつわるリスクの多くを容認する姿勢を、はっきり打ち出した。たとえば、フォードのジム・ハケット社長兼CEOは、GEヘルスケアと協働するに当たり、自社のエンジニアやデザイナーたちが「積極果敢で創造的」に行動できるようにした。

 第2に、コロナ禍の間に、ウイルスだけでなく、潜在的なパートナー候補も指数関数的に増加した。世界中の企業が同じ危機の影響を受け、多くの企業が新しいビジネスのやり方を模索している状況では、おのずとパートナー候補の数が増える。その結果、たとえば1ヵ月前と比べて、よりよいパートナーを見つけやすくなったのだ。

 危機に直面しているとき、企業はより多数の、さらにはそれまでとは異なるタイプのパートナーを探そうとする。危機のあともそうしたオープンな姿勢を持ち続ければ、その企業はイノベーションを自在に実現できるだろう。

 ●緊急性が変革を生む

 平時に企業がオープン・イノベーションを目指す場合、最初に取る行動はたいていわかりやすい。たとえば、コンサルタントを何人か雇い、イノベーション・トーナメントを開催するなどして、アイデアが生まれるのを待つ、といった具合だ。しかし、往々にして結果はお粗末なものに終わる。

 オープン・イノベーションの恩恵を十分に享受するためには、変革の必要性を認識することが不可欠だ。表面的に新しい活動を取り入れるだけでなく、ビジネスのやり方と根本的な仕組みを変えない限り、オープン・イノベーションは実を結ばないことが多い。

 とはいえ、そのような変革を成し遂げることは、一人の社員、一つのチーム、あるいは一つの部署の単位では難しい。経営陣が変革に強い関心を示すことが必要なのだ。

 その点、危機のときには、経営陣の関心が必然的に高まる。賢明な企業は、そのような機会を生かして、自社のイノベーションのインフラを再検討する。コロナ禍における高等教育界の実例は、真に大規模なオープン・イノベーションが実現可能であり、ひときわ保守的な業種も変わることができるのだという、希望の光を灯せるかもしれない。

 新型コロナウイルスの感染拡大が本格化すると、大学教員たちは、ある日突然、翌日からの授業をオンライン形式で行うよう言い渡された。このとき、実際のやり方は個々の教員に委ねられた部分が大きかったが、大学の学長たちは教員たちを励ますメッセージを発して、実験的な試みにお墨つきを与え、官僚主義的な規則などの障害を取り除いた。そのような環境の下、この数ヵ月、世界中の大学教員が協力し合い、オンライン授業のコツや授業プラン、実際の経験を互いに共有した。

 こうして、普段は動きの遅い巨人のような高等教育機関が、陸上競技の短距離ランナーさながらに素早くデジタル化に突き進んだ。この経験からわかるように、オープン・イノベーションを妨げる最大の要因は多くの場合、なかなか本気で取り組もうとしない姿勢なのだ。

 ●未来へ向けて

 以上に挙げたことは、たしかに有望な動きではある。しかし、それはこの先も続くのか。やがて、ビジネスが平常に戻るときが来る。そのあと、イノベーションへの新しいアプローチはどのくらい企業内に残るのか。

 そして、社会はほかの大きな課題にどのように向き合っていくのか。たとえば、地球温暖化は「迫りつつある脅威」ではもはやなく、すでに「私たちの目の前に存在する脅威」になっている。共通の敵と戦うために力を合わせれば、人類最大の脅威と戦うために不可欠なスピードと力強さと創造性を獲得できる――新型コロナウイルスの経験を通じて、人類がそのことを学んでいてほしいと思う。

 マネジャーがじっくり考えるべきなのは、コロナ後の時代に何が求められるのかという点だ。大きな危機は、顧客、社員、取引先の行動を変える場合が多い。顧客の嗜好は今後も変わらないはずだと信じたいかもしれないが、概してその願望通りにはならない。

 危機のときにオープン・イノベーションの新しい方法を確立できた企業は、柔軟性を獲得し、会社が将来にわたり生き延びる確率も高められる可能性がある。それなのに、危機が去ったあとに昔の平常に復帰するための計画を立てているようでは、せっかくの経験を無駄にしてしまう。ニュー・ノーマル(新常態)の中でビジネスを続けるための計画を立てることを心掛けるべきだ。


HBR.org原文:Why Now Is the Time for "Open Innovation", June 05, 2020.


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