発生確率が考えられない「不確実性」の高いことが、現実に起こりうるという事実を、コロナ禍によって突き付けられています。しかし実は、石油ショックや9.11テロなど、過去にもこういう危機はありました。そしてその都度、不確実性に対峙する思考や対処法は考案されています。今月号の特集「戦略的に未来をマネジメントする方法」は、その現代版です。 


 最初の論文は、本論でその思考について詳述し、囲み記事でバックキャスティング(未来から現在を振り返る)や、コンティンジェンシープランニング(緊急時対応計画)、ホライズンスキャニング(弱い変化シグナルを探して影響力を評価する)などの対処ツールを紹介しています。 

 本論の前提は、未来は予測し切れない、です。そこで創造的な方法で未来を「想像」し、未来に向けてどう進むべきかを考える「戦略的洞察」(strategic foresight)を推奨します。

 何と、映画『博士の異常な愛情』の主人公のモデルが発案者として登場します。この洞察を支援するツールの一つ、シナリオプランニングを使って、不確実性への対処を、本論で展開していきます。 

 特集の第2論文は、実践的です。筆者のローランド・ベルガー シニア パートナーの長島聡氏はまず、世界最大の自動車会社フォルクスワーゲンの事例から、シナリオプランニングを活用して、いかに競争優位を築くかを説明します。

 未来を「先読み」して戦略を立て、その戦略に時代の流れを「引き寄せ」る働きかけを関係者に対して行います。それでも、時代の流れが自社の戦略とは異なる展開になった場合に備えて、柔軟に対応できるような「構え」を取る、という3ステップです。

 しかし、テスラのように次元の異なる製品(電気自動車:EV)が潮流になる不確実性があります。その対抗策として、「未来をつくる構想」を説きます。その実践にはパーパス(企業の存在意義)が重要であるとのこと。そして、構想の視点から、構えでの備えを再検討して、自社の経営資源の潜在力を活かす方法が、日本企業の事例で示され、勇気付けられます。 

 もっと具体的に、危機への対処を論じるのが、特集3番目の対談です。コロナ禍にあっても、日本電産会長の永守重信氏は意気軒昂です。同社はこれまでも、多くの危機を成長の機会に転換し、飛躍してきました。その際、何を考え、どう行動したのか。一橋大学大学院客員教授の名和高司氏が永守氏に質問して掘り下げていきます。

 明らかになるのは、まさに「戦略的に未来をマネジメントする方法」です。直近の厳しい環境を生き残るための競争力を日々磨くと同時に、長期視点で時代の流れを読んで、成長性の高い分野に他社に先駆けて投資し、次代を担う事業を育成する「長短複眼経営」を実践しているのです。 

 4番目は名著論文再掲。17年前、ITバブル崩壊と9.11テロ後の不況という不確実性危機をどう乗り切ろうとしたか、論客ゲイリー・ハメル氏が4つの施策を挙げています。意外にも永守・名和対談との共通項が多いのですが、本論は属人性に依らない具体策になっている点が役に立ち、即効性があります。