新しいチャンスに向けて、どのような選択をしてきましたか。そのプロセスで実験が果たす役割は何でしょうか。

 レストランを休業にしたとき、テイクアウトを始めることにしました。最初は、うまくやるノウハウがなくて大変でした。3週間ほど経ったとき、「ビジネスが成長していない」と思いました。私はいつも、どうすればこのビジネスを成長させられるかを考えるタイプなのです。

 そこで、テイクアウトをもっと幅広く考えようと思いました。「人々に体験を与えよう」と。たとえば、サンタモニカにあるレストラン「シノワズ・オン・メイン(Chinois on Main)」で、65ドルのロブスター料理を販売することに注力するのはやめよう。そうではなく、私たちの店で食事をするアドベンチャーを提供しよう、と提案したのです。

 そこで、39ドルでワンタン入りチャイニーズ・チキンスープ、餃子の辛味ソース添え、野菜の春巻き、シノワズ・チキンサラダ、ロブスターの半身またはショートリブのジンジャースイートポテトのピューレ添え、そしてクッキーのセットを用意しました。もちろん大した利益にはなりませんでしたが、これが多くの人を呼び込むことになりました。

 私にとっては、それが一番重要です。私はビジネスが成長するのを見るのが好きなのです。全部のレストランで、こうした成長を生み出す方法を見つけなければいけません。

 ビバリーヒルズの「スパーゴ」でも新しい試みをしました。最初は、ストックしていた食材を動かすために割引価格で提供を始め、徐々に価格を戻していきました。さらに、ワインとカクテルの販売も始めました。これがとても好評だったようです。本格的な「ネグローニ」を購入できます。あとは氷の入ったグラスに注いで、オレンジの皮を添えるだけです。

 やがて、水曜日と木曜日は、テイクアウトがやや低調であることに気づきました。そこでフライドチキンを始めたところ、圧倒的な大ヒットメニューになりました。これは誰も予想していなかったことです。

 うまくいかなかったアイデアもあります。木曜日にハンバーガーを用意したことがあるのですが、あまり売れませんでした。でも、そうやって、いろいろ試しました。試さなければ、何がよいかわかりませんからね。

 今度はバーベキューを試すつもりです。それがうまくいかなかったら、フライドフィッシュか何かをやるでしょう。手探りです。

 新たな顧客を獲得するために、現状に適応して、あれこれ試す努力をしています。コロナ危機をチャンスにしようとしているのです。もしかすると、テイクアウト専門のキッチンをつくるかもしれません。これを機に、まったく新しいビジネスを生み出せるかもしれませんよ。

 コロナ禍でチームをどのように管理してきたのですか。レストランの店長たちはビジネスの成功を維持するために、どんな役割を果たすのでしょうか。

 今回の危機で、これまで以上に経営の分権化が必要になりました。私は、あれこれ指示を出さなくても、自分で考えて行動できる人と仕事をしたい。官僚的な仕組みにはしたくありません。どのレストランでも、シェフと店長がその店の経営を担う責任者です。

 シェフが市場で新鮮な材料を見つけたとき、店長に電話して「メニューを変えて、これを使ってもいいかな?」などと聞く必要はありません。「好きにしろ。君を信頼しているから」と、私は常日頃から言っています。そうすると彼らは自信を持てますし、自由にやれるようになり、幸せに仕事ができます。

 新たな収入源を確保するために、レストラン業以外に進出したことはありますか。

 調理機器や調理品の通販を試してみたところ、うまくいっています。エアフライヤーは1万1000台以上売れたし、ステーキも36万ドル相当の売上げがありました。

 調理品は2ヵ月に1度やっています。やろうと思えばもっとできるのですが、倉庫がありませんし、ケータリング用のキッチンをスタジオに変えるので、準備に時間がかかるのです。ケータリング専門のシェフたちもよくやってくれていて、最近ある週末で250万ドル相当のイベントをこなしてくれました。

 2週間ほど前、素晴らしい機会にも恵まれました。バーチャル料理教室です。料金は175ドルですが、150人もの申し込みがありました。ちょっと高い気がするかもしれませんが、カクテルが2杯と、キャンティ(赤ワイン)が1本、3皿のコース(の材料)とデザートが届きます。

 こちらで揃えた材料もあれば、参加者が自宅にある材料を使うこともできます。つくり方は動画で見せます。「すごい、自分でリゾットをつくれるなんて!」といったコメントをたくさんもらいました。参加者には貴重な体験だったようです。