
新型コロナウイルスのパンデミックにより、あらゆる企業が大打撃を受けている。これまでの競争のルールが変化したことは明らかだが、やみくもに抜本的な変革に乗り出すのは得策ではない。ブランドのパーパスは維持したまま、消費者のニーズに合わせてビジネスを調整する必要がある。本稿では、ビジネスモデルの方向転換(ピボット)に成功するための3つの条件を示す。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴う経済活動の停止は、ほぼ瞬時に景気後退を引き起こし、大小を問わず企業に大打撃を与えている。私たちの生活のあり方そのものが、脅かされているとも言われている。
「通勤の終焉」「小売業の消滅」「グローバリゼーションの崩壊」といった大々的な宣言をもとに、多くの経営者が、何もかもが変わると思い込んでいる。生き残るためには組織全体の徹底的な変革が必要で、さもなければ破産申請が待っている、というわけだ。
ただし、企業が危機にどのように対処し、復活の準備をしているかという現実は、かなり異なる。短期的な生き残りを長期的なレジリエンスと成長につなげるような、ビジネスモデルへの方向転換(ピボット)が行われているのだ。これは、顧客と企業が共有できる十分な価値を生み出すような水平方向の転換でもある。
音楽のストリーミング配信で世界をリードするスポティファイを考えてみよう。このようなプラットフォームは原則として、ロックダウン(都市封鎖)経済で成功するための要素をすべて持ち合わせている。自宅に閉じ込められた顧客は、物理的な流通をいっさい介することなく、再生用デバイスにシームレスに配信される音楽を聴いて、憂鬱な現実から逃避したい。
しかし、スポティファイは、ある基本的な問題を克服できるような転換点を見つけるのに苦労した。
スポティファイは、アップルミュージックとは異なり、広告を強制的に聴く無料のユーザーに著しく依存している。パンデミック前は、広告収入が、無料のユーザー基盤よりも速いペースで成長しており、最終的な収益に大きく貢献すると予測していた。そのビジネスモデルがすでに成熟している兆候もいくつか見られたが、パンデミックの直撃を受けて広告主が予算を削減するまで、その限界がわかりにくかった。
そこでスポティファイが行った転換の一つは、ポッドキャストによるオリジナルコンテンツの提供だ。わずか1ヵ月でアーティストやユーザーが15万本以上のポッドキャストをアップロード。著名人と専属配信の契約を結び、プレイリストのキュレーションも始めている。このような戦略の転換は、スポティファイが、より多くの流行をつくり出す可能性がある。
著作権者が健全なマージンを享受する一方で、ネット専業のストリーム配信が収益の確保に苦労している業界で、スポティファイもついに、ネットフリックスの成功のレシピを実践している。
このような方向転換は、デジタル・プラットフォームには間違いなく有効だが、従来のビジネスモデルにも効果があるのだろうか。