人材選別:
スターパーフォマーだけを集める
これはニワトリとタマゴだが、優秀な人材が求めるのは、やりがいのある課題に対して、優秀な同僚と自由に取り組めることである。そのためには、信頼できる優秀な人材を集めなくてはならない。それがドリーム・チーム(dream team)である。
ネットフリックスのマネジャーの仕事は、6ヵ月先を見通してドリーム・チームをつくることだ。チームはプロスポーツのチームであり、家族ではないことが強調される。
そのための重要な手段は、優秀な人材の採用と、そうでない人材の解雇である。ネットフリックスは人事考課と報酬制度を分離し、報酬としては市場価値の最大を支払う。また、マネジャーが解雇を逡巡しないように、手厚い退職手当が用意されている。
ネットフリックスでは特典もないし、ボーナス制度もない。「最高の人材は特典になびかない」「会社を第一に考える一人前の大人なら、年次ボーナスがあるからと言って仕事に精を出したり、才能を発揮したりしない」からだ。
ネットフリックスの人事で最も毀誉褒貶の激しいのは、“Keeper test”だろう。「自分の部下がもし辞めようとしたら、本気で引き止めたいかどうか?」がスターパフォーマーの基準であり、そうでない人材はさっさと解雇しなくてはならない。
解雇については、もう一つ重要な点がある、それはマネジャーがチームメンバーと率直なコミュニケーションを密に取り、解雇された側に「サプライズがないこと」「尊厳が保たれる」ことだ。
毎年ボトム10%を解雇する方針で知られたジャック・ウェルチ(ゼネラル・エレクトリック〈GE〉元会長)も、著書の中で「不意打ち禁止、侮辱禁止」とまったく同じことを言っている[注7]。そして、「誰が解雇されるべきか、されたとしたらその理由は何か」については、日常的にかつ公に共有・議論がされた。
「スターパーフォーマー」というと、どうしても組織から浮いた、一匹狼的な存在が想像されるが、ネットフリックスが求めているスターパフォーマーは、チームプレーヤでもある。クリエイティビティや生産性は、互いを信頼できる優れた人材同士が情報を共有し、さまざまなアイデアを出し合い、共同したほうが高まるからだ。
だからこそネットフリックスは、“brilliant jerks(頭はいいけど嫌な奴)”を受け入れない。ITの世界では、「優秀な人材は普通の人材の1000倍以上の価値がある」などといわれることもあるが、“brilliant jerks”はほかのリンゴを腐らす原因となり、チームへの悪影響はもちろん、組織文化全体を揺るがすからだ。
「どの会社も素晴らしい企業理念を掲げるが、多くはあいまいでだれも気にしていないことが多い。その会社が本当にどのような理念を持っているかは、誰が評価され、誰が馘になるかでわかる」[注8]と明言する。
ネットフリックスほど苛烈ではないものの、シリコンバレーでは、こうした実力主義は当然のことと思われている。たとえば、グーグルに関しても次のように言われている。
「下位10%の社員を解雇し、代わりに新規採用者を迎い入れたら組織全体のパフォーマンスは改善するだろうか。そうだとすれば、そのような質の低い社員を合格させてしまった採用プロセスを見直し、改善する方法を検討したほうがいい。(中略)退社したいといわれても、懸命に引き留めようと思わない社員はいるだろうか。もし辞めてもいいと思う社員がいるなら、おそらく辞めさせたほうがいいだろう」[注9]
また、アマゾンにも同様の文化が見られる。ベゾスの口癖は、「毎日が常に1日目」だ。社員が慢心して挑戦しなくなることに、常に危機感を抱いているという[注10]。
ただし、ネットフリックスの社内でも、この容赦ない透明性と“Keeper test”については賛否が分かれる(囲み「アマゾン出身者が引き継ぐこと、避けていること」を参照)。社員の間で「やりすぎ」「かえってモチベーションを落とす」「毎日解雇されるのではないかとおびえながら職場に行っていた」という声がある[注11]。その一方で、そうした緊張は能力の発揮にプラスにもなっている[注12]。
アマゾン出身者が引き継ぐこと、避けていること
『ウォール・ストリート・ジャーナル』は2020年3月17日、“Amazon Has Become America’s CEO Factory(アマゾンは米国の『CEO工場』になった)”という興味深い記事を掲載した。かつてはGEあるいはIBMの出身者が他社のCEOになることが多かったが、いまやアマゾンが「CEO輩出企業の代表」になったというのである。
アマゾン出身者が必ずと言っていいほど引き継ぐのは、“Our Leadership Principle” に代表される14の項目からなる同社のスタートアップカルチャーだ。これは、すべての社員がリーダーだといい、上位職者だけでなく全社員はこうであれという宣言である。
アマゾンにはこの信条以外にも、有名な「ピザ2枚ルール」(ミーティング参加人数の上限はピザ2枚を分け合う程度)とか、ミーティングでは(顧客の代わりに)誰も座らない椅子を置く、パワーポイントのプレゼンテーションは禁止など、スタートアップの精神を忘れないというベゾスの精神を体現した仕組みがいくつもある。
アマゾン出身者の多くがこれらを引き継ぐ一方で、避けている点もある。それは「アマゾン文化」に関する、良く言えば感情を排して業績を追求する面、悪く言えば冷酷な面だ。特に容赦ない意見の対立を奨励する点については、あまりに苛烈で、燃え尽きてしまう社員、同僚とうまくやっていけない社員が出るため、より共感力を重視するようになっているという。