筆者らが観察した第1のアプローチでは、「手術室」とも言うべき教室で、実体験の価値を深く認識することに焦点を当てて教えている。
トロント大学ロットマンスクール・オブ・マネジメントは、アントレプレナーシップ論を教える教室を医学部の公開手術室のように改装した。学生たちは大きな劇場型講堂で席に着き、教授が人体ではなくスタートアップ企業を「手術」するところを観察するのだ。
ロットマンのクリエイティブ・ディストラクション・ラボでは、有名起業家たちがパネリストとなり、教授とともにこうしたスタートアップ企業を徹底検証し、直観、つまり経験のみを通して培われる起業家のスキルを学生が学べるようにしている。
他のビジネススクールも似たようなプログラムを採用している。たとえば、ニューヨーク大学スターンスクール・オブ・ビジネスのエンドレス・フロンティア・ラボでは、ロットマンと同じように経験的学習法に焦点を当てている。
筆者らが発見した第2のアプローチでは、分析麻痺に陥らずに行動を起こせるよう、学生の思考を「配線し直す」ことに焦点を当てている。
「うまくいかなかったらどうしよう」とか「このリスクをどう管理すればいいのか」といった声が頭の中で聞こえる経験は誰にもある。教育の力でその声を黙らせ、代わりに「これがうまくいったらどうなるか」と言わせることができるのだと想像してほしい。
バージニア大学ダーデンスクール・オブ・ビジネスは「エフェクチュアルな」起業の発祥地である。エフェクチュアルな起業とは、学生がすでに持っている起業のリソースを認識し、ある程度のリスクを受け入れるように勧めるアプローチだ。このマインドセットは、リスクの最小化を強調する、伝統的なビジネススクールのアプローチとは正反対である。
また、ビジネス界は情け容赦ない激しい競争があることでよく知られているものの、ダーデンのプログラムでは協働によるイノベーションの力を学生に教えている。仲間に自分の考えを包み隠さず打ち明け、多様な洞察や見解を活用し、ベンチャー企業を共同で設立することを勧める。
筆者らが観察対象とした最後のプログラムは、従来のビジネススクール寄りのアプローチを取っていた。ペンシルバニア大学ウォートンスクールでは、リソースのタイプやリスク最適化アプローチという、従来型ビジネススクールの世界で知られるアプローチが中心である。
これは、ビジネススクールは、他の科目を教えるのと同じような方法で起業家精神についても教えるべきである、という考えに基づいている。新たなベンチャー企業の創設に関する発表済み学術論文に出てくる分析モデルやツールを学生に提供して教えるのだ。
この教育原理は、成熟期にあるスタートアップや創設者がスタートアップにありがちな落とし穴、たとえば不適切な共同創業者の選択や不利な条件での金融支援の受け入れ、最適ではない製品決定などを避けるのに役立つ可能性がある。しかし、きわめて不透明な状況に置かれているいまの起業家には、それほど役に立たない。