
人工知能(AI)を人材採用・評価に活用する企業が増えている。過去の膨大なデータに基づき、その人の秘めた可能性を見出す取り組みは価値をもたらす一方で、活用方法を間違えると大問題に発展する危険性もある。本稿では、コロナ禍で試験を実施できなくなり、生徒の成績を予測に基づき算出した国際バカロレア機構のケースをもとに、AIを活用する際の留意点を考える。
あなたの子どもがどの大学に進学するのかをアルゴリズムに決められたら、いかが思われるだろうか。
今年は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの高校最終学年生は外出を禁じられ、各国の政府は期末の卒業試験を中止させた。これを受けて各地の試験委員会は、2020年度卒業生の将来を大きく左右する最終成績を、試験以外の方法で決めることを迫られた。
そうした団体の一つである国際バカロレア機構(IBO)は、高校卒業生の総合成績を決めるに当たり、生徒のこれまでの実績、およびその他の過去データを基準にすることに決め、その際に人工知能(AI)を活用するという選択をした(本稿ではAIという言葉を広義の意味で使い、通常人間が行うタスク〈この場合は生徒の成績の処理〉を実行するためにデータを使うコンピュータプログラムを指している)。
この実験は成功せず、不満を抱えた何千もの生徒と親たちはその後、激しい抗議運動を始めた。
では、何が間違っていたのか。そして私たちはこの出来事から、AI活用型ソリューションに伴う課題について何を学べるだろうか。
国際バカロレア(IB)とは何か
IBは高校教育の修了証と資格を与える厳格かつ権威あるプログラムで、世界中の一流校で導入されている。150ヵ国を超える国々の優秀で勤勉な生徒たちに、世界各地の一流大学に進むチャンスを与えている。
例年ならば最終成績は、生徒が達成したコースワーク(課題)と、IBOが直接実施し採点する最終試験に基づいて決まる。コースワークは最終成績全体の約20~30%を占め、残りは最終試験が占める。
試験前に、教師は「予測スコア」を算出し、大学はこれを基準にして志願者に入学をオファーできる。ただし、志願者の最終スコアが予測スコアを満たすことが合格の条件となる。
IBOはまた、学校による成績のかさ上げを防ぐために、各生徒のコースワークの「サンプル」を別途独自に採点する制度を整えている(つまり、学校の教師による内部評価とIBOによる外部評価がある)。
こうしたプロセスは総じて、厳格で高評価に値する審査手順と見なされている。IBOは各科目および各学校に関するデータを大量に収集してきた。データポイントは何十万にも及び、なかには50年以上前から続くものもある。
そして何より、予測スコアと最終スコアの相関関係は厳密だ。主要なIB認定校の間では、成績の90%以上が予測と一致しており、合計スコアの95%以上が予測の上下1点以内に収まっている(合計スコアは1~45点満点)。