一つの方法は、職場に「ランダム・ローテーション」という制度を導入することである。このシナリオでは、全従業員が定期的に、新型コロナウイルスへの接触と症状についてアンケート調査を受ける。アンケートへの回答に基づいて、従業員のうち最小限の割合、たとえば5~10%が、体系的に職場勤務から1週間外れる。
外れる人員に含まれるのは、新型コロナウイルスへの接触を申告したすべての人に加え、申告はしていないがランダムに選ばれたグループだ。彼らは翌週の復帰にあたり、週末に症状の検査を受ける。症状がある、または陽性と診断された従業員は、しかるべき医療処置を受ける。
ランダム・ローテーションのおかげで、接触を申告した人は同僚および直属の上司に対し、「もっともらしい否認」(plausible deniability:ある行為に自分が関与したという決定的な証拠が不十分のために、関与を否定できること)を貫くことができる。
すなわち、在宅に割り当てられた人は、自分が選ばれたのは本当に無作為であると、もっともらしく主張できる。したがって、自分が病気かもしれないと心配する従業員は、安心して一時隔離を求めることができるわけだ。
ランダム・ローテーションの代償は、一部の人員が希望していないのに在宅となることだ。このデメリットは想定の内である。「健康な人も職場勤務から外されうる」という事実そのものが、安心して接触を自己申告できる理由なのだ。
この方法は、新型コロナ接触に限らず、デリケートな情報を引き出す際に使える。従業員のウェルビーイングを大きく脅かすものとして、メンタルヘルスの問題、燃え尽き、ハラスメントがあるが、スティグマへの恐れから報告されないことが多い。いずれの問題も、感染拡大、外出禁止、雇用不安によって悪化している。
もっともらしい否認を担保できるアンケート手法の導入によって、情報を引き出せるようになり、助けが必要な人に支援を提供しやすくなる。
検証済みの方法論
ランダム・ローテーションは「ランダム回答法」というアンケート手法をもとにしている。これは数十年前から、社会科学者がデリケートなデータを集める際に用いている。その根幹を成す概念は、もっともらしい否認だ。
このアンケートは、いかなるデリケートな回答も、調査手順における「ランダムな衝撃」に原因を帰すことができるよう設計されていなくてはならない。それによって回答者は、実際に記入した回答がどうであれ、デリケートな回答を提出したことを、もっともらしく否認できるのだ。
たとえば、ある研究者が、アスリートらによる違法薬物の使用がどれほど行われているか推定したいとしよう。
アンケートの回答者らに対し、異なる質問が書かれた一山のカードを与える。20枚のカードには、「あなたはパフォーマンスを高める薬物を使用していますか?」とある。残る10枚には、「質問はありません。とにかく"はい"と答えてください」と書かれている。
各選手はカードをシャッフルし、内密に一枚のカードを引く。ある選手の答えが「はい」の場合、その選手が薬物を使用しているのか、それともアンケートの手順に従っているのかを、研究者は推し量ることができないわけだ。
ランダム回答法を組織環境で用いるのは比較的最近のアイデアだが、この手法によって正直な報告を大幅に増やせることが研究で判明している。さらに、実験室環境におけるエビデンスによれば、もっともらしい否認は内部告発を――たとえ報復の恐れがあっても――促進することが示されている。
社会科学研究以外の分野では、軍や法執行機関にとって情報源の保護はおなじみの懸案事項だ。アフガニスタンとイラクにおける、ランダムな包囲捜索による暴動鎮圧作戦には、軍隊が情報源を守りながら情報に基づいて動けるという利点もある。