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コロナ禍でリモートワークに移行した企業は少なくないが、単に作業する場所をオフィスから自宅に変えただけでは、さまざまな弊害が生じかねない。そこで、筆者らが注目するのがリモートワークの先駆者、ギットラボだ。同社は創業以来、全員がリモートワーク。現在は1300人以上が65カ国以上に分散して働いている。秀逸なのは、業務を同期させるべきこと、非同期でできることに切り分け、時間や場所に縛られないというリモートワークの柔軟性を最大限に活かしたマネジメントを、組織全体で実践している点だ。


 新型コロナウイルス感染症がもたらした危機により、人々はオフィスを離れ、雇用者はおおむね、時には不本意ながらも、従業員は在宅勤務でも効率よく働けるという事実を受け入れた。

 ソーシャルディスタンスを保つことと引き換えに、そしてバーチャルな意味でも職場を維持するために、雇用者は従業員に対して、従来の勤務時間を守って働くよう促している。つまり、終日誰かとビデオ会議に参加するのであれば、在宅勤務で構わない、いやむしろそのほうが効率的かもしれないと雇用者は考えているのだ。

 しかし、従業員が在宅勤務をする場合、「勤務時間」を確保するのが難しいことが多い。同じように在宅を強いられている家族から要求されて、仕事の時間を奪われる状況に対処しなくてはならないからだ。

そのような状況で従来の勤務時間に縛られていたら、在宅勤務は実際にどの程度効率的なのだろうか。勤務時間の縛りをなくすことは可能だろうか。

 どうやら、それは可能らしい。我々はパンデミック以前から、テック企業のギットラボ(GitLab)が実践しているリモートワークの取り組みについて研究してきた。その目的は、企業が従業員を職場という物理的な束縛、そして時間的な縛りから解き放った時に、どのような状況になるかを調査することである。

ギットラボが直面した難問

 ギットラボは2014年の創業以来、スタッフ全員がリモートワークをしている。現在では1300人以上の従業員が、世界65カ国以上に分散して勤務している状態だ。

「ギット」的な働き方では、従業員はツールを使って世界のどこからでも、各自の都合のよい時間に進行中のプロジェクトに取り組む。その根本には、地球上のどこかでは必ず「9時から5時」の時間内なので、業務は絶え間なく続けられ、全体の生産性を向上できるという発想がある。

 これは一見すると素晴らしいアイデアに思えるが、社員が異なる時間および地域で働いているため、他社にはない調整の難しさがあり、組織上の広範にわたる影響も生じる。

 世界中に仕事を分散させる最も自然な方法は、仕事をモジュラー化し、それぞれを独立させることである。そうすれば、直接調整する必要性は、ほぼなくなる。スタッフは同僚の進捗具合を知らなくても効率よく働ける。こうした理由から、仕事の分散化はコールセンターや特許の査定業務において有効性が高い

 しかし、このアプローチを開発やイノベーションに関わる仕事に適用するには限界がある。業務の構成要素間の相互依存性を、あらかじめ把握しておくのが容易ではないからだ。

 このような複雑な仕事には、絶え間ないコミュニケーションが可能な同一の場所で働くほうが好ましいアプローチであることが多い。なぜなら、同時性とメディアリッチネスという2つの利点が得られるからである。

 第1に、同じ場所にいれば、複数間でやり取りを交わす場合にタイムラグはほとんど生じない。

 第2に、実際に顔を合わせる場合とバーチャル環境の場合では、たとえ同じ内容の会話を交わしたとしても、社会的な状況や背景にある文脈から得られる手がかりをテクノロジーがすべて伝達できないおそれがある。ズームのグループ会議でスクリーンの向こうにいる人々の反応を感じ取るのは簡単なことではない。

 これらが示唆するのは、同じ場所で一緒に仕事をしている時ならば自然に起きることを、単にオンラインで(ビデオや音声チャットを使って)再現しようと試みるのは、必勝法でも完璧な戦略でもないということだ。

 それでも、世界中がロックダウンした直後に我々が実施した、リモートワークの取り組みに関する調査によれば、リモートワークを強いられた人々は基本的に「顔を見る」というアプローチを取るようである。