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新型コロナウイルスの感染拡大で働き方が大きく変わる中、オフィスの価値が問われている。オフィス不要論も聞こえ始めているが、都市論の第一人者であるリチャード・フロリダは、立地戦略は今後も競争優位を築くうえで不可欠だと語る。本稿では、企業本社の所在状況を60年にわたり追跡した結果に加え、自身の豊富なコンサルティング経験をもとに、コロナ後を見据えて立地戦略を再考するための5つのアプローチが示される。


 新型コロナウイルスの感染拡大によって、何千万もの米国人が在宅勤務という実験を大々的に繰り広げている。この実験は大方の予想を超えて長期化しそうだ。企業は相次いで、少なくとも2021年中頃まではオフィスを再開するつもりはないと発表している。評論家の中には、オフィスの死都市の終わりを予言する者さえいる。

 しかし、あまり先走りすぎないほうがよい。私たちがどこで働くか――その場所と立地をめぐる問題はいま、かつてなく根本的な問いとなっている。

 パンデミックやその他の危機は、現状の破壊や変革につながる。だが歴史を見れば、すでに進行中のトレンドを加速させる場合もある。

 企業の拠点をどこに置くかという問題は、かなり以前から戦略的重要性を高めている。

 企業が花形都市とハイテク集積地で高級化と住宅費に及ぼす影響、そして税金で賄われる優遇措置をたっぷり得ようとする目論見に対し、反感が高まっている。5月にミネアポリスで警官がジョージ・フロイドを殺害した残酷な事件以降、人種的・経済的正義を求める運動が全米の都市に広がる中、企業へのこうした反感が今後も強まるのは明らかだ。

 経済、政治、社会をめぐる環境がますます緊迫する今日、立地に関する判断の重要性は高まる一方だ。誰が在宅勤務に就き、誰が実際のオフィススペースを必要とするのか。どのオフィスを閉鎖し、どれを維持するのか。オフィスをどう構成し共有するのか。具体的にどの立地に設けるべきなのか。人材が豊富な花形都市、よりコスト効率がよい準大都市や中堅都市、商業地区の中心部、郊外、それとも地方部にすべきか――。

 これらを見極めるには、高度に戦略的な思考、分析、計画が求められる。

 今日、立地は企業戦略の核を成す要素の一つである。削減可能なコストというだけでなく、人材を惹きつけて維持するうえでカギとなる。いわゆる「立地戦略」は、企業が競争優位を得るためには不可欠なのだ。

 立地戦略に関する筆者の知見は、過去数十年にわたる経済地理と企業立地に関する自身の学術研究、注目を浴びた数々の立地選択案件に直接関与してきた経験、そしてハイテク企業および市当局との協働経験に基づいている。